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直言曲言 第169回 「エントロピーの法則」 

By , 2006年8月13日 3:00 PM

社会的引きこもり増加の原因は経済成長の果ての社会システムの歪みや疲弊である。労働市場からの若者の排除が第一の原因に挙げられる。企業利益を守ることを最優先した製造業は人件費の安い海外に製造拠点を移し、国内では派遣やパートやフリーターなどの不安定労働力に依存して、特に青年層を疎外した。若い人は夢を失い社会人になる(働く)希望をなくした。

しかしこうした社会的な理由だけで引きこもるのであれば若者の大部分が引きこもりになってしまうはずだ。引きこもりは多めに見ても同世代の1割弱である。実際の引きこもりを見ていて考えられるもう一つの原因は親の振舞いである。親は子どもたちを愛している。その愛ゆえにも子どもたちを叱咤激励する。勉強しなさい。良い高校や良い大学に入りなさい。すべて良い就職をして、幸せな人生を送らせたいがためである。親が子どものことを思う本来プラスのはずのエネルギーが、明らかに子どもにとってマイナスのエネルギーになって引きこもりの引き金になってぃる。

熱やエネルギーが動力になって『仕事をする』これは蒸気機関車の原理を見ても明らかである。しかし『熱が仕事になるときその転換効率は必ず低減する』のであるからどこかでムダが発生していることになる。たとえば高圧線で送電しょうとしても空気中への放電などで必ず送電効率は下がることになる。親たちのしぐさを見ていると子どものためを思いながら、やっていることは必ずしも否定できない場合でも、子どもにとってマイナスとしか思えないことをやっている。これはエントロピー(熱エネルギーの第2)法則と言われるものでエネルギー利用のやり方がエントロピーの高い方法をとっているからではなかろうか。つまりはエネルギーがすべて仕事に転換されるのではなく、仕事や目的にマイナスに作用するやり方である。エントロピーとは、もともと物理学概念だが、最近では社会科学上のシステム概念への適用も進められている。

私たちは引きこもりに対する支援を行っているが、その中でニュースタートの3つの目的と言って①友達作り、②親からの自立、③社会参加の3か条を推進している。③の社会参加とは畢竟『就労』することである。その『社会参加』を推進するために私たちはNPO法人日本スローワーク協会を設立した。しかし『スローワーク』を提唱したときに多くの若者たちから『ハードワーク批判はわかるけれど、スローワークをやっていてはハードワークに負けるのではないですか』と言う疑問が続出した。つまり彼らはすべてハードワーク社会のエリート候補として教育されてきたのであり、スローワークとは負け組、負け犬の遠吠えであり、そんなところに加担したのでは『社会復帰』出来ないのではないか?と考えたらしい。

引きこもりたちの『社会参加』にはスローワークが必要だと考えたわれわれだが、それを直線的な道筋と考えるのはやめにして、日本スローワーク協会は完全な別組織にした。スローワークの理念を共有できる人たちだけが自由意志で参加すればよい。それがNPO法人スローワーク協会である。だから私の中ではNPO法人ニュースタート事務局とNPO法人日本スローワーク協会の活動理念は完全に一致しているつもりだが、それは他人に強制するべきことではないし、事実両NPOの会員・参加者もかなり異なるようである。

NPO法人日本スローワーク協会はその代表的な業務として『喫茶コモンズ』を運営している。もちろん引きこもり体験者を含めて、参加者がスローワークを実践する場であり、 社会参加の場である。ニュースタート事務局の寮生の中にも『コモンズ』で接客や皿洗いなどの仕事をしている人は多い。しかし『コモンズ』が喫茶店であり、夜は居酒屋風になるので『面白そうだ、興味がある』と言うので働きたがる人が少なくない。スローワーク協会の設立目的である『スローワーク』と言う理念の方は『二の次』になっている。『何がスローワークであるのか?』と問われても即答するのは難しい。 『時間給が安いのはスローワーク?』これは明らかな間違いであろう。『楽をして働けるのがスローワーク』これもどうやら違うようである。

どうも難しく考えすぎているようである。私たちは難しい哲学的思考から『スローワーク』 を思いついたわけではない。高度経済成長の中で日本は大きく発展した。しかし、その結果『働きすぎ日本』が出現した。『エコノミックアニマル』と言うのも同じような意味である。 その結果家庭を顧みるゆとりのないお父さんが現れた。企業戦士とか社畜とかいわれて、サービス残業続き、過労死も発生しハードワーク全盛時代であった。工業化全盛時代であった20世紀。その中で人間を消耗し、地球資源も消耗し尽くした。石油を消費し、電力を消費し、市場を開拓するために戦争も続いた。エントロピーが高すぎたのではないか。どこか働き方が間違っていたのではないか。『持続可能な繁栄』『有限の地球や人間資源』を大切にするような働き方。 21世紀に生きるわれわれは働き方を含めてそれを求めていくべきではないか。

われわれは、引きこもりの大量発生と工業化社会の終焉を見て『スローワーク』を発想した。自動車工業を代表するような『デトロイト』(アメリカ)から高付加価値の農業や皮革デザインなどの『トスカーナ』(イタリア)へと産業パラダイムも変化していく時代である。生産性や効率重視オンリーの工業社会から『エントロピーの低い、あるいはエントロピーを極小にする』 ような働き方への変化が必要なのではないか。『エントロピーが低い』 働き方とは何か?これも難問である。

この答はスローワーク協会に参加する人々が、一人一人考えて答を出してほしい。働くことについては、散々考えてきた人々ではないか。経済的な利益だけを求めて働くことを拒否してきた人々ではないか。働くことの意味を考えない仕事がハードワークやエントロピーの高い仕事を生み出したのではないか。われわれはこの『判断停止』を許しては成らない。『判断停止』こそが社会的引きこもりの蔓延を許してきたからだ。

スローワークとは職業の種類ではない。スローワークとは働き方の問題である。引きこもりの若者やその親たちに聞くと職業選択というとサラリーマンか公務員という。サラリーマンか公務員が『給料が安定している』からだという。 サラリーマンや公務員と言うのも職業の種類ではない。サラリーマンや公務員と言うのも働き方の問題である。雇われて働いてはいけないとは言わない。しかし、今の資本主義社会でサラリーマンや公務員として雇われて働いて、自由なスローワークが出来るとは思わない。

少なくともスローワークを志す人は、仕事の疲れを 明日に持ち越すべきではないと思う。過労で病気になどなるべきではない。仕事を生きがいとなすべきであると思う。『小遣い稼ぎ』や『自分の適性』探しのために暫定的にやるアルバイト時代なら『雇われ』ることも仕方がないが、本当に自分の天職を探そうとするなら『自営業』を目指すべきではないか。『自営業』ならエントロピーを高めようと低めようと自分で決められるはずである。

2006.08.13

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