直言曲言 第116回 「非婚化・少子化・高齢化」
『高齢化社会』という言葉があるが、実はこの言葉はもう、大変古い。高齢者とは65歳以上の人のことを言い、総人口に占める割合が7%を越えると『高齢化社会』という。日本では1970(昭和45)年に7%を突破し、平成6(1994)年には14%を越えた。高齢化率が14%を越えると『高齢化社会』ではなく『高齢社会』と呼ぶ。
平成15年(2003)年には19%に達している。やがて高齢化率25%超える『超高齢社会』社会の到来も確実である。 高齢社会がやってくると『何が問題なのか?』高齢者が総人口に占める比率が高くなると、労働力人口が低下し国民一人当たりのGDPが低下する。つまり労働力一人当たりについて扶養しなければならない高齢者の数が増えて、日本人が貧しくならざるを得ない訳である。高齢者の増加により、医療費負担も増加する。導入後数年しか立たない『介護保険』制度も破綻するのは見えており、既に40歳以下の労働力にも保険金を負担してもらうという法案も用意されている。
日本は他の先進国と比べても『高齢化』のスピードがずば抜けて高い。いくつかの理由があるが一つは日本の『長寿化』である。もう一つは『少子化』である。高齢者が長寿化し、生まれてくる子どもが少なくなれば必然的に高齢化する。
『合計特殊出生率』という言葉がある。15歳から49歳の女性がその年に子どもを出産した数を平均すると概ね、その女性が生涯に産む子どもの数が推計できると言う統計的概念である。戦後のベビーブームと言われた昭和22(1947)年には合計特殊出生率は4.32であった。つまり夫婦二人が生涯に4.32 人の子どもを生み育てた。
それが第2次ベビーブーム(つまり昭和22年前後に生まれた世代が結婚して初出産期を迎えた)には合計特殊出生率は2.14となり、平成14年にはさらに1.32と低下し続けている。単純に分かることは夫婦2人で、子ども2人以上産まなければ将来人口が減少してしまうことは明白である。実際には合計特殊出生率が2.1を下回れば、将来人口は減ると言う。(乳幼児死亡率を考慮して)出生率の低下は深刻な社会問題であり、政府はもちろんさまざまな機関でも出生数を増やすための『対策』について議論がなされてきた。
まず、女性の社会参加が増加しており、働きながらでも子育てができる社会環境整備が問題になった。保育所の増設や長時間保育である。通勤途上でも子どもを預けられるように駅前保育所なども検討された。大企業では、職場に保育所を設ける事業所もできた。もちろん出産退職をせずに済むように、出産休暇の長期確保や夫も子育てに参加するための男性の保育休暇を取り入れる企業も増えた。 自治体も出生数の増加が、将来の税収を左右するという思惑から、出産奨励金を出すところが出てきた。一人っ子が増えているという誤解から、二人目や三人目を生んだ家庭に出産や育児奨励金を交付する自治体が増えた。
それでも合計特殊出生率は低下し続けている。 『一人っ子が増えた』というのは誤解である。確かに第1子の出産年齢化が高くなっていることから、一人しか生めない母親も増えている。また戦後のように 4人以上の子を持つ家庭が多かった時代とは異なるが、一人っ子よりも2人または3人の子を持つ家庭が多いのである。特殊出生率が1.32と低いのは、一人っ子が多いからではなく出産適齢(可能)期にありながら、未婚または子どもを持たない(既婚・未婚を問わず)女性が多いからである。
こうしたことから『少子化』の問題は、未婚・非婚または晩婚が原因になっていると言うことに気づくべきである。少子化対策と称して、保育所の増設や育児奨励金を出すのを無駄とはいえないが、子どもを産み育てる前提としての家族の形成が、未婚・非婚・晩婚などによって損なわれていることに気づかない為政者はおかしいのではないか。もちろん未婚者の増加や晩婚化も統計的には知られている。
しかし、こうした非婚傾向も青年層に対する誹謗中傷とも言うべきさまざまな悪質な言説によってごまかされている。いわく、風俗産業の発達による性的欲望処理、援助交際や出会い系メディアによるセックスの遊び化、ポルノ系サイトやAVなどによるバーチャル・セックス化…。こうした性風俗が蔓延しているのは事実であり、それが非婚化などを背景にしてセックス産業に付け入られた結果として認めることはできるが、風俗評論家のうがった分析としてならともかく、まともな社会学者、政治学者や為政者が非婚化の原因として真面目に議論をしていたりするのを見ると『ふざけるな』と言いたくなる。
あなた方、政治家や学者先生方よ、30代の独身女性や男性に5人でも10人でも『未婚の理由』を聞いてみればよい。『セックス産業のお世話になっているから…』という理由や考え方を答える人がいるだろうか? 平成14(2002)の婚姻件数は75万7千件余である。これに対し、パラサイトシングルと言われる独身男女は約1000万人いると言われる。このうち、フリーターと言われている若年者(15~34歳)が417万人いる。(フリーターとパラサイトシングルは定義が異なるので、必ずしも比較対照できない)
さらにフリーターとして働くこともできていない『引きこもり』や『NEET』の若者もいる。引きこもりやNEETは働いていないので、少なくとも一般的な結婚の条件に欠ける。特に引きこもりの若者は、対人恐怖などで友達としての交際にも尻込みがちで、結婚相手を見つけるのも難しい。 フリーター生活を送る若者の中には、76万件と言う年間婚姻件数をすぐにでも倍以上に押し上げてもおかしくない男女が存在する。
彼らは時給800円~1000円の低賃金で社会保険の適用も、有給休暇制度も、退職金の適用も受けず働いている。自分の希望する時間数や時間帯も選べず、いつ突然に解雇されるかも分からない不安定雇用である。一生懸命働いても、多くは年収100万円程度かそれ以下である。大部分は親の経済的支援を受けたり、親の家に同居している(パラサイトシングル)。
こんな状態を余儀なくされている彼らが勝手気ままに独身生活を楽しんでいると言えるだろうか?年収100万円の生活に甘んじている男性が、愛する女性にプロポーズできるだろうか?あるいは、女性の実家を訪れて、その父親に『お嬢さんと結婚させてください』と言えるだろうか?もちろん結婚は『両性の合意』のみによって成立し、親や経済的条件に左右されるべきではない。
しかしあなたが、その娘の父親だとすれば答えはYESなのだろうか?建前の論理でごまかすのなら別だが、現実には不可能な結婚なのである。 少子化や高齢化を問題にするのなら、引きこもりやフリーターの存在を許している社会システムそのものを何とかしなければならない。
2005.02.04.