NPO法人 ニュースタート事務局関西

「清潔に保たれている汚い布巾」髙橋淳敏

By , 2026年1月17日 5:00 PM

清潔に保たれている汚い布巾

 

 雑巾よりも見た目が汚くみえる焦げ茶色した布巾が、台所で立っている視界の中に掛かっている。以前は、すぐ汚れてしまう布巾が、台所という食品を扱う場所では似つかわしくなく思い、洗濯機に放り込んだり、何枚かをローテーションしたり、化学繊維に変えてみたり漂白までしたこともあったが、布巾の用途として何をしようにもしっくりこなかった。布巾なんて使い捨ての消耗品である訳なので、一つを使い続けることを諦めて、用途に応じて種類を増やすこともやってはみたが、増やしたところで掛けておく場所にも困るし、そもそも掃除道具の煩雑さは本末転倒のようにも思えた。

 この問題の原因でもあり、解決するきっかけになったのは、鉄フライパンの存在であった。ある時に、テフロン加工のフライパンが焦げ付くようになってしまい、その代わりに週に一回ほどしか使わない鉄フライパンをメインに扱うようになった。以前もそのようなことはあったが、代わりになるようなフライパンが手に入ることで、鉄フライパンは常にサブ的な使い回ししかされなかったが、今回はPFAS汚染問題について意識したこともあって、新たにフッ素加工のフライパンを購入することを躊躇っていた背景があった。今、売られているテフロン加工のフライパンはかつて主流であったPFOSとかPFOAは、ほとんどというか禁止されて使われてはいない。だが、PFASだけでも1万種類あるようで、そうではないフッ素化合物と言われても詳しく表記もされていないどころか、かつてはアピールポイントでもあった「テフロン加工」や「フッ素加工」の表記すらよくよく見ないと見つけられない小さな文字で書かれている商品が多かった。そういう不信感もあって、PFASではないのは分かっていても、他のフッ素化合物ならば安全かもよく分からないし、表記も信用ならないところもあって、店先でフライパンを購入するには至らなく、ようやく鉄フライパンに向き合わざるをえなくなった。

 布巾に使うものは、よくあるタオルの半分以下の大きさで、綿100%であればいい。汚れや水けを拭き取りやすいような触れ込みの化学繊維なんかが混じっていると、高温になった鉄フライパンを冷まさなくてはならない時に使い物にならない。鉄フライパンが焦げ付かないようにするためには、必須ではないものの濡らした布巾があればとても便利になる。だけどこの時に、綿であっても多少は変質していくし、何よりフライパンの底の焦げとか汚れが布巾に付着する。それが布巾の見た目を汚くする。でも考えてみると、200度を超える鉄で布巾の水分が熱せられ湯気が立ち上るくらいなので、布巾はその都度消毒もされている。匂ってみればわかるが嫌な臭いもしなければ、高温ですぐに乾きだすので干していても乾きやすくカビなども生えにくい。その布巾で台所周りを拭いて、また料理するときに水で洗って高熱消毒してという循環が生まれることになった。鉄フライパンが育つと同時に、汚れは布巾が育っていることがみえるので、愛着もでてくる。他の人から見たら、ただ汚い布巾なのかもしれないが、とても清潔に保たれている愛らしい布巾である。

 いや、まあただそういう話しなのだが、引きこもりとも直接関係なく、なぜそんな話しをここに書いたかというと、他にも類似するような話があって、ここには字数の関係上書けないが、結論から言うと見た目ばかりを気にして、汚そうなものを少し遠くに追いやることによって、後戻りができない真に汚い世界になってしまったのではないかという壮大な話しをしたかったのです。万博のようなメガイベントにおけるクリアランス、野宿者や風俗の排除のことや、近所にできた駅前のマンモス私立大学の見た目ばかりの建物のことや、私たちの源である土の中のこと。赤ちゃんの肺はこの世界に晒されてからは、わが濡れ布巾のごとく日に日に汚れていく訳で、私たちは生きていれば汚れないで生きることはできない。むしろ、汚れていくことに愛着や価値もあるわけで、それを見た目で排除することはいけないよって、優しい話。

 

2026年1月17日 髙橋淳敏

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