NPO法人 ニュースタート事務局関西

『親と教師が少し楽になる本』佐々木賢著 北斗出版

By , 2012年3月2日 1:45 AM

 久しぶりに読後に爽〔さわ〕やかな力が湧いて来るような本に出会った.筆者の鋭い観察力と分析力により,脳髄をわしづかみにされ,マッサージをされたような感じである.
  と言っても,タイトルのように『少し楽に』させてもらったわけではない.むしろサブタイトルにあるように『教育問題は教育では解決できない!』という重い命題を押し付けられ,途方に暮れるという実感に近い.

 筆者は元定時制高校の教師であり,本著もいわゆる教育学の教科書のようなものではない.しかし,教師の体験告白のようなものでもなく,極めて論理的に書かれた,『教育』や『教育に対する幻想』に対する批判書である.

 体験モノとの違いは,学術書に劣らないくらい豊富に引用される文献からも指摘できる.ただし,教育学や社会学,哲学や心理学の文献はほとんどなく,多くが内外の新聞のルポルタージュやホームページ上の記述である.また学術書に多く見られるようない文献の長々した引用はなく,簡潔で分かりやすい第一人称による断定的な文体で書かれている.あとは編集者との共同作業という豊富な図表がそれを補っている.
  要するに筆者の体験を通じて現代の教育の破綻の実態をあます所なく捉え,尚且つ,ジャーナリストの目を借りた分析と推論で筆者自身の仮説を大胆に提起しているのである.

 随所で子供たちの暴発や大人たちの眼から見た『逸脱』を,その社会的背景を含めて眼をそらさずに見つめながら,その原因を大人たちや社会が『学校の存在は当たり前』としている『教育万能論』にあるとする筆者の論法は,確かに『親と教師』が『楽になる』かどうかは別として,『学校』はともかく『教育』に対する信頼を疑ったことなど毛先ほどもない読者の目を覚まさせる.

 本書は直接にはほとんど『引きこもり』については触れていない.しかし,不登校であれ校内暴力であれ,学級崩壊であれ,若者と子どもを巡る社会環境の変化は,当然『引きこもり』現象にも共通するものであり,引きこもりを理解する上での数々の視座を提供してくれる.

 とりわけ私にとっては,引きこもりの若者たちやその親たちがこだわる(学校の卒業や職業)資格の虚妄を指摘し,そのような資格の普及を進めようとする者たちを『国家認定詐欺師』と断罪する痛快さは本書の比類なき特色を示している.
  学校と教育に対する幻想から脱出できない親と教師もどきと若者に是非一読を勧めたい.
 
西嶋彰 ニュースタート事務局

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