NPO法人 ニュースタート事務局関西

直言曲言 第271回 「世 襲 」

By , 2009年8月15日 3:39 PM

漢字ブームである。「漢字検定ブーム」と言った方が良いかもしれない。日本漢字検定協会の儲け過ぎや理事長親子の背任事件などがブームに一層の拍車を掛けた感がある。私も漢字クイズは好きでよく挑戦する。尤も私は「漢字検定」など受験したことはなく、私の周囲にも漢字検定を受けた人など聞いたことがない。「漢字クイズ」を見るのは専(もっぱ)らテレビ番組である。ゴールデンタイムの番組を見ているとかなりの確率で漢字テストに遭遇する。教育番組ではなく娯楽番組としてである。タレントの出演料にお金がかかるかどうかは知らないが番組企画としてはずい分安易な制作態度である。最近は漢字に詳しいタレントがこの種の番組にレギュラー出演するなど「漢字タレント」化している。もともと「知的タレント」と見なされていた某女優や京大出身の某漫才師などである。彼のおかげで京大や東大卒の俳優やタレントがこの種のクイズ番組に刈り出されるようになった。なるほどある程度の難しい入学試験を合格した人ならこの程度の漢字を「知っていて当然」と思われるかもしれない。しかし漢字知識と学力はストレートに比例するものではないらしい。ただしあるレベルまでは大学入試の国語試験などに比例するだろう。あるレベルを過ぎると入学試験などにも出てこないマニアックな知識を必要とするようだ。先日もテレビ番組でタレントと某国語学者が対戦していたが国語学者は散々な成績であった。

私は学科の中では国語が好きだった。だが「書き取り」の勉強などしたことがなかった。「書き取り」で勉強する漢字などたかが知れている。漢字を知っていてもその読みや熟語を知らなければ今の漢字テストは解けない。テレビの漢字クイズでは「漢検2級」相当と言われるものはたいてい解ける。大体大学入学試験の国語漢字テスト程度の問題ではないか。しかし、準1級とか1級と言われる問題はほとんど解けない。解答を見ても今まで読んだことも習ったこともないような問題である。自分を基準にしているようで申し訳ないが、普通の人には解けなくても当たり前の問題ではないか。高校までの国語教育に登場するような問題ではない。著名な国語学者にも解けないような問題なのであるから珍問・奇問と言えるような問題かもしれない。いずれにしても検定のために、2級の上に1級を設定するために出題者が無理やり探してきた問題であるようだ。

世襲(せしゅう)という言葉はそれほど難しい部類の言葉ではない。最近では「政治家の世襲禁止」などの言葉が新聞の政治面をにぎわせている。「その家の地位・財産・職業などを子孫が代々受け継ぐ」という意味もそれほど難しくないだろう。それではなぜそのような意味の言葉を「世襲」という文字であらわすのだろう。

「世襲」を「よをおそう」と読んでは意味が通じない。襲には部首として衣が使われており、ここから「かさねる」という意味が生じる。「世代をかさねる」つまり世代を継承するの意味が生じる。「職業」を子孫が受け継ぐのは悪いことではないが、国会議員となると特権的階級である。国会議員が世襲されてしまうと、いわゆる三バンが独占されてしまう。「地盤」「カンバン」「カバン」のことである。カバンとはお金のことであり、地盤とは選挙区にその党から立候補する権利である。看板付きでその地盤を確保すれば小選挙区制である今日ほぼ議員の席が世襲されるに等しい。

社会的にはこの世襲は避けたいものだが、もうひとつ看過出来ない「世襲」がある。「貧困」の「世襲」である。「貧困」はもちろん所得や財産が少ないことによる。貧困により子どもが教育を受ける機会を奪われるとなると、貧困から脱出する機会を奪われることが多い。こうなると貧困の世襲は貧富の格差の世襲である。こう言ってもこの欄の読者に親が本当に貧しい人など少ないだろうからピンとこないだろう。私など文字通りの貧困を継承してしまったから、「貧困の世襲」に恐怖していたくちである。継承する財産など何もなかったのだから、自ら教育を身に付けて貧困から脱出するしかなかった。それをみずから放棄して大学を中退し、自ら望んでドロップアウトし、資産がないのを娘たちに継承してしまったのだから「三代続きの貧困階級」である。

「貧困」だとなぜ「格差」が世襲されるのか?「教育」を受ける機会が奪われるとなぜ「貧困」が継承されるのか?誤解を受けやすいのでコメントをしておく。

7月の新聞に報道されていたが「親の年間所得と大学進学率に強い相関」があることが判明した。大学進学率は早くから18歳人口の50%に到達したといわれていたがこれは短期大学を含めてのこと。今年初めて4年制大学だけで50%を超えたという。ところが、親の年収と大学進学率を調査してみると年収1200万円超では進学率が60%を超過しているが年収200万円クラスでは進学率は25パーセント程度だという。所得別に進学率の分布を調べるときれいに正の相関を見せる。さらに別の調査によると親の年収と子どもの学力調査の得点にも正の相関が読み取れるという。すなわち年収1200万円層の子息は200万円層に比べて20点も得点が高く、しかも各所得層別に正の相関が読み取れるという。前にこの欄でも報告をしたことがあるが、大学生の親の年収は東京大学が全大学別の中で最も高いという。つまり親の所得水準が高く、塾や予備校を含めた教育環境の整備をしてやれなければ東京大学はもちろん大学に進むにも格差が生じてしまうということだ。親の所得が低ければ、私立大学をはじめとして大学進学が困難であることは予測がついたが、経済的要因としての進学不能だけでなく学力面でも裏付けられたとなるとまさに「格差の世襲」である。国会議員の世襲だけでなくまさに社会悪の固定化である。実は貧困や格差の固定化というのは今回初めて統計的に裏付けられたが、実感的には以前から予想されていたことだ。国会議員の世襲制限の問題などを巡って「世襲」の善悪などが問題になったので、明らかになってきたことだ。引きこもりのすべての若者の親が裕福だとは言えないが、さまざまな要因が絡み合って、私たちが出会う引きこもりは中堅以上の裕福な家庭が多い。それでも中学や高校での登校拒否を含めて、大学進学率あるいは大学卒業率は極めて低い。残念ながら、今の社会では就職が困難である。ましてや引きこもっていては正社員になれる確率は低い。正社員と臨時社員では生涯所得の比較において3倍程度の開きがあるという。つまり引きこもりであるあなたは貧困の初代になってしまう可能性が高いと言える。但し、貧困と不幸ということとは違う。貧困でも幸福に暮らせるように、そして貧困を世襲させないために選挙で一票を投じて欲しい。

2009.08.15.

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