NPO法人 ニュースタート事務局関西

直言曲言 第216回 「家族からの自立」

By , 2008年1月30日 11:32 AM

ニュースタート事務局では引きこもりからの脱出を図るための重要な手段として3つの目標を掲げている。①友達づくり、②家族からの自立、③社会参加、である。『社会参加』とは『仕事』を通じて社会に参加することである。つまり『仕事』をすることである。当たり前のことであるが、親御さんたちは①や②の問題に気付かず、まず『就職を』と望む人が多く、友だちを作って、人間関係を改善しなければ、社会参加することも出来ない。そのことを知らせるためにあえて①②③と順序をつけて『目標』とした。②の『家族からの自立』には私自身『確信』を持っているわけではなく、親や本人に話す場合も状況をよく確認して、言葉を選ぶようにしている。

動物の場合でも成熟した場合、親から離れ、餌を獲るのも敵から身を守るのも親を頼るのではなく、自ら行うようになる。親は次の子を育てなければならず、やがて親は老化して死んでいく。子は成熟した場合、次の世代を作らなければならず、家族以外の異性を見つけ、生殖行為をする。生殖行為というのは親公認であろうとなかろうと、親から離れて密かに行うものらしい。

このように生物学的にも成熟した生物は『自立』すべきようであるが、人間の場合この常識が強調され過ぎてきたような気がする。その背景の一つは、青年の社会的成熟が遅くなり『甘え』が指摘されるなど、『幼児化』に対する社会的批判が高まったことによる。また大人の間で『享楽主義』的傾向が強まり、子どもの早期自立を促し、自分たちが楽に過ごそうとの意志が明確化したためでもある。人間は独自の文化的発展をしているのであり、必ずしも野獣と同じような生物学的特性を維持しなくても良いのではないか?豊かになり、天敵のようなものはいなくなったのであるから、親に甘えていたってよいのではないかと思う。

成人しているのに、親に同居している若者未婚者を『パラサイト・シングル』と言う。異種生物でもないのに『パラサイト(寄生)』とは『悪意』のこもった呼び名だが、本来『自立すべき』という観点からはやむを得ないかもしれない。1説には『25歳から35歳』の若者で両親同居のものを呼ぶらしいが、定義も定かでないのではっきりしないはずだが約1000万人いるらしい。35歳といえば社会人の中でも『中堅』と見られ、立派にパパ・ママになっている人も多いのに、未婚で親と同居をしているというのは情けない気もする。今年の成人者は135万人というから、1000万人といえば7世代以上にわたる人が全く結婚していないのに等しい。非婚・晩婚者が増え、少子化時代になるのも『むべなるかな』の感想である。

非婚者が増えているのに、パラサイト・シングルに対する風当たりはきびしい。そこで、未婚だけれど親元からは離れて、独居している人が増えている。親からの圧力もあるのだろう。未婚の若者が独居している。働いていないのだから、親に経済的な支援を受けているのだろう。経済的には『自立している』とは言いがたい。引きこもりの若者の『自立』もたいていこうなる。『自立』のためのトレーニングと考えることも出来るが、親の自宅の近くなどでマンションなどに一人暮らしをしていても、そのマンションで引きこもっていてはどうしょうもない。親と同居している方がまだましだ。親が世間体などを気にして、見掛けだけの『自立』を演じているようだ。

未婚の若者の単独世帯が増えると、全国的な世帯数が増加する。全世帯の全国平均は10%ほどの増加だが、単独世帯に限定すると30%ほどの増加となっている。人口は横ばいから低下傾向になっている中での世帯数増加であるから、明らかに一世帯当たりの人口は減少しているのである。世帯数が増えることの影響はまず住宅問題に表れる。人口が頭打ちになっていれば、住宅需要も減少して当たり前なのだが、住宅需要は一向に減らない。建築着工指数というものがあって、好景気・消費動向の目安とされている。ところが家に住もうとしているのが働いていない若者では、経済力が空洞化する。一つ一つの世帯にとって、マクロ経済の指標がどうなろうと関心は少ないであろう。わが子の『自立』と日本経済の動向に関連があるなど『そんなの関係ない』の世界かもしれない。ところが世帯数の増加は環境問題にも影響する。最近の地球温暖化傾向は化石燃料による炭酸ガス増加による。7月の洞爺湖サミットでも排出ガス規制が話し合われる。日本は環境先進国であり、環境技術でも進んでいるといわれる。産業界では環境規制が進んでいるのに、民政面での抑制が進んでいないといわれるその原因の一つが世帯数の増加である。

『企業の一人勝ち』と言われるように庶民は物価高や賃金低下に悩んでいるのに企業は空前の好景気に沸いている。フリーターや派遣社員、若者の就職難も人件費を抑制しようとする企業の身勝手である。そんな企業に地球環境問題を庶民の民政の所為にされたくない。単独世帯が増えれば、住宅需要をはじめ、暖房費・冷房費を含め,エネルギー消費が増大する。残念ながら、引きこもりは優良消費者とはいえない。引きこもりは『けち』であるが、経済観念が発達しているとはいえない。冬は暖房を点けっぱなし,夏は冷房を点けっぱなしで一般の独身者よりも5倍もエネルギー消費をする人がいる。それ自体は強く非難するほどのことでもないが、自分で稼いだお金で生活をしているわけではないので『節約』と言う課題に思い至らないのであろう。いずれにしても独立した世帯を営むのには『生活無能力者』と言わざるを得ない。

どうも『自立!』『自立!』の大合唱は自立無能力者まで社会にあふれ出させる副作用を生み出したようだ。自立は必要だけど、まだ自立できない無能力者を社会に放り出してどうするのだろう。ニュースタート事務局に相談に訪れる親たちにも、子どもが未成年の場合『そんなに自立を急ぐ必要はない』と申し上げている。子どもが30歳を過ぎている場合『早く追い出すべきだ』と言う。自立する機会を永遠に失いそうだからだ。20代の場合はどうか。難しい!自立は他人に促されたり強制されてするものだろうか。自立能力が生まれてくれば、頼まれても親と同居し続けようなどとは思わない。

2008.01.30.

コメントをどうぞ
(※個人情報はこちらに書き込まないで下さい。ご連絡が必要な場合は「お問い合わせ」ページをご覧下さい)

Panorama Theme by Themocracy | Login