NPO法人 ニュースタート事務局関西

直言曲言 第206回 「関西大好き」

By , 2007年10月9日 5:31 PM

『直言曲言』は200回を超えたがほとんど95%以上は『社会的ひきこもり』に関するものである。もちろん引きこもりについて書きたくて始めたのであるが、毎回引きこもり関連のテーマを決めて書き始めているのではない。A4のワープロで約2枚、400字詰め原稿用紙煮なおすと6枚ほどになる。書き始めると一気に書くこともあるが、たいていは途中で中断し、二、三日後に書き続けるということが多い。中断すると、どうしても引きこもり問題が頭にあるのでテーマが引きこもりに傾いてくる。たまに、引きこもりに無関係なことを書きたくて、今回もおよそ関係のなさそうなタイトルで書き始めた。

私は大阪生まれで、63年の人生のうち、約50年は大阪市・京都市それに今住んでいる大阪府高槻市に住んでいる。だからほぼ関西人といって差し支えないだろう。出生後すぐに福井県に移り住み、その後東京・北海道に移り、そこで終戦を迎えた。戦後京都に住み、その後大分県別府市から兵庫県西宮市と8年間に6都市に移住した。私の父は東京生まれで東京育ち、私にも関東人の血が流れている。そんなこともあったからなのか、高校生の時には東京に家出したことがあり、大学生のときにもしょっちゅう東京に行ったり、滞在したこともある。

関東と関西には様々な風俗・習慣の違いがある。合理的な理由があるものもあるが、なぜだか理由の分からないものもある。一般に食生活では『西高東低』。『西高東低』といえば冬の気圧配置。西からシベリア寒気団が張り出し、冬の季節風が吹く。食肉習慣もその一つだろう。『肉』といえば関西では牛肉のことだが、関東では豚肉を食べることが多い。関西では最近有名なのが新世界のくしカツ屋。私は幼いとき、父に連れられて良く東京に行っていた。東京で『カツ』といえばもちろんとんカツ。有名店も多い。大阪の新世界では『カツ』といえば『牛カツ』 豚肉のカツを食べたければわざわざ『とんカツ』といわなければならない。関東・関西の牛肉と豚肉の消費量の違いを知りたければ『家計消費実態調査』を見ればよい。理由は分からないが、西と東では牛肉消費量の違いは歴然としている。ちなみに、タレントの『タモリ』がテレビで「名古屋の人はえびフリャーが大好き」と言ってから、名古屋人のえび好きは有名になった。毒舌で知られたタモリの名古屋人をからかったジョークかと思っていたが前記『家計消費実態調査』を見れば事実であった。愛知県の人は、東京や大阪の人に比べて、海老の消費量が多い。

今では日本酒の等級区別はなくなったけれど、平成4年までは特級酒・一級酒・二級酒などの区別があった。酒税による区別で、等級による品質の区別はそれほど厳密ではなかったようだが、ここでも西と東の違いがあった。関西では『お酒』といえば特級酒や一級酒、関東では一般的に二級酒、普通の居酒屋で特級酒など置いていなかった。これほど露骨な西と東の区別はなかったろうと思う。合理的な理由などないと言ったが、昔は京都に天皇がいて都があった。関東は鎌倉にしても江戸にしても武士の政権中枢。質素・倹約を旨とした伝統がつい最近まで息づいていたと言えるだろう。

ここでまた引きこもりの話に変るが、社会的ひきこもりについては東高西低である。誰も統計など取ったことがないだろうから、正確には分からないが私の直感では、首都圏では関西に比べて5割り増しくらい引きこもりの発生率は多い。引きこもりは日本特有の社会現象だといわれている。精神科医の斉藤環氏は儒教特有の家族関係のせいではないかと仮説を立て、韓国に渡ったそうだが、私の知るところ朝鮮半島にも中国にも引きこもりはない。もちろん全くいないとは断言は出来ず、少なくとも社会問題化するほどにはいないという意味である。私の思うところ、引きこもりが発生するには次の5つが必要条件になる。①競争社会である。②就職難である。③中流市民層がいる。(相対的に豊かな市民層がいる。)④厳格な家族制度が崩れつつある。⑤コミュニティが崩壊している。韓国は日本と同様に激しい競争社会であるが②や④の条件はどうか?中国も沿岸部の都市は日本や韓国に似ているが、内陸部や中国全体として見ればどうか?

東高西低と断ずるのは、⑤の条件『コミュニティの崩壊』である。東、といっても首都圏の話だが、全国から集まってきた人々は、故郷喪失の人々で職業生活や個人の消費生活を大事にして、居住地での近隣生活を軽視する。子どもたちは、居住地近隣で成長し、人間関係を学ぶのだが、コミュニティが崩壊していて、人間関係そのものが不在である。関西やその他の地域は首都圏に比べてコミュニティの崩壊が緩慢である。といっても全国各地がミニ東京化しており、引きこもりの子どもを支えあうような地域力はない。これと似たような経験をしたことがある。私がマーケティングの仕事をしていた頃で、有料老人ホームの販売戦略を検討していた。有料老人ホームは老後の生活不安を解消するために、当時5000万円や1億円以上の終身入居金を支払って入居するシステムである。この有料老人ホームの入居者募集はもちろん景気の変動の影響を受けたが、それ以上に首都圏では好調、それ以外の地域や関西圏では不調であったのである。

コミュニティが健在の地域では歳を取っても地域に支えられながら生きていける。首都圏では、先ほど言ったように、職業生活のために地方から移住した人が多く、近所づきあいが少なく、『都会の孤老死』などの言葉もよく聞く。老後の安心のためには大金をはたいても惜しくないという割り切り様である。首都圏以外の地域では『地域に支えられて生きていこう』という意識が強く、有料老人ホームに入居しようというニーズが低かったのである。有料老人ホームの事業者にとっては首都圏の方が事業がしやすかったであろうが、生活者にとってはもちろん関西の方が住みやすい。

実は私は牛カツよりもとんかつが好きだ。特級酒よりも二級酒が好きだ。どうしてもというこだわりはないが、好きなほうを選べといわれれば、値段の安い関東人好みを選ぶ。他にも東京落語が好きで、大阪落語には馴染めない。父親が東京出身ということが影響しているのだろう。しかし、関東と関西、どちらに住みたいかと聞かれたら即座に関西と答える。東京で四方を見回しても山は見えない。東京には大地震の恐れがある。だいたい、どこの生まれだか分からないようなあの『標準語』というのが嫌いだ。何よりも耐えられないのはコミュニティの欠如とそれが当たり前かのように、他人に無関心であるかのように振舞う人の態度である。

2007.10.09.

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