NPO法人 ニュースタート事務局関西

直言曲言 第166回 「昼夜逆転型節煙」

By , 2006年7月15日 2:40 PM

引きこもりの若者には「昼夜逆転」の習癖/習性を持つものが多い。しかし引きこもりすべてが「昼夜逆転」であるわけではない。私の観察によると第1種引きこもりで8割以上、第2種引きこもりでは7割程度、第3種引きこもりでは5割前後と見られる。「昼夜逆転」のことを「症状」ではなく、「習癖/習性」と書いたのは病気ではなく、単なる習慣に過ぎないと考えるからである。つまり本人がその気になればこの「習性」はいつでも止められる。脱却できるのである。この昼夜逆転の習性について、あまりにも深刻に考える親御さんがいたので私は、心配することなど「まるでない」と語ったことがある。
ある親御さんは、子どもに「昼夜逆転」を止めさせるために、昼間眠っている子どもの部屋に蛍光灯を増設して眠りにくくしたという。私は笑い飛ばして否定した。「『電照菊』を育てるのじゃあるまいし」『電照菊』は人工的に「日照時間」を調節することによって菊の開花時期を調整するのだ。「日照時間」と睡眠ホルモンの分泌状況の関連性は知られている。しかし観賞用の花の栽培技術と人間の健康とを混同するなんて、生半可な自然科学技術の誤用ではないだろうか。
私は『引きこもりは病気ではない』ということを『持論』にしている。あるとき、自然科学系の研究者たちの研究会にて出て、私の『持論』を報告する機会を得た。精神科医もそのメンバーに含まれていた。『昼夜逆転』についての『持論』も話すにいたった。メンバーの一人はおもむろに私に反論した。「『昼夜逆転』はメラトニンという睡眠ホルモンの異常分泌が原因で…」私は即座に反論した。メラトニンという物質が存在することは知っていたが、私の引きこもりとの「面談」体験ではそんな「物質的異常」が昼夜逆転をもたらすとは思えなかった。海外旅行による「時差ぼけ」にしても同じだ。「昼夜逆転」している人にメラトニンの異常分泌はあるかもしれないが、因果関係は確定出来ないはずである。それ以上の科学的な論争はできなかったが、その場に出席していた10人ほどの自然科学系の研究者の大半も私の意見に賛意を表したようであった。
私は引きこもりにおける「昼夜逆転」の問題をそれほど重視していない。「異常行動」や「病的症状」として重大視する親御さんにも「心配しなくてよいですよ。昼間はやることがないから眠っていて、夜起きるのです。昼の行動目標ができればすぐに改善します。」ということにしている。ところがここにも、案外重要な問題が潜んでいることに気づいた。引きこもりの若者が、昼間眠っているのは、ある種の行動を忌避するためだ。通常の昼間、若者は学校に通っているか、仕事をしている。昼間、家の近所でぶらぶらしている引きこもりは異端視される。他人に顔を見られたくないことから「対人恐怖」に陥る。昼間は家の中にいて、退屈だから寝ている。夜は眠られず、ゲームやチャットなどパソコン遊びをしている。そうなると「昼夜逆転」そのものは病気でないとしても、原因のひとつである「対人恐怖」は看過できない。むしろはっきりとこの問題に直面すべきではないか。
私は「愛煙家」である。「愛煙家」は最近とみに肩身が狭い。「嫌煙権」が幅を利かせていてタバコを据えない場所が増えている。『愛煙』とは言うがどうも軽々しく聞こえる。タバコを手放せない人にとってタバコは呼吸の一種であり、『思考』の一種でもある。特に喫煙を禁じられると、息苦しくなったり、自由な思考力が落ちる。かくして『蛍族』などという言葉が生まれて、夜間にベランダに出てタバコを吸ったり、換気扇の下でタバコをすう人が出てくる。私もその一人である。
私は喫煙のせいで、最近生活習慣が変わった。初孫のせいである。 私の家族は妻も3人の娘も嫌煙家である。妻の父も兄弟も医者であり、かなり前から禁煙している。自分も以前は愛煙家であったくせに、今では医学的知識を背景に禁煙を説く。まるでいつまでも『禁煙』しないのは馬鹿であると言わんばかりである。このような迫害に耐えて私は愛煙権を主張し続けてきた。ところが初孫の誕生には部分的に譲歩せざるを得なくなった。

次女は結婚して遠方にいたのだが、このたび出産のために『里帰り』して1月ほど前に初孫(女児)を生んだ。彼女は健康で、私に似たのか大柄である。私は彼女の母親の禁止指令もあるが、彼女が近くにいるときには決してタバコを吸わないようにしている。彼女は昼間はほとんど私と同室である。私の部屋にベビーラックをおいて、そこですやすやと眠っている。私もまさか彼女の顔を覗き込んでいるときに、タバコを吸わないから、昼間は『禁煙』することになった。といっても、どうしてもタバコが吸いたくなれば、家の外に出てタバコを吸う。窓から家の中にタバコの煙が逆流しないように気をつければよいだけである。夜は彼女は母親とともに、2階に移動する。夜といっても母親の生活時間であるから、ほとんど12時を回ってからである。そこで私も12時までは禁煙タイムとなる。

手持ち無沙汰となるので、夜は早めに午後9時ごろから就寝となる。夜中に目が覚めると無性にタバコが吸いたくなる。夜は文字通り傍若無人。私の愛煙ワールドである。煙や匂いが残るといけないので窓を開けたり、換気扇を回してタバコを吸う。 仕事がなくて在宅の日、昼間はタバコが吸えなくて手持ち無沙汰なので午前中からつい昼寝をしてしまう。夜は午前2時過ぎには目が覚める。老人性の早起きの癖も重なっているのだろう。制約がないので一服が2服になる。夜が白み始めるともう眠れない。早朝にはテレビとラジオの語学講座が始まる。睡眠時間が足りないと、午後にも昼寝をすることになる。日中は『寝たきり老人』の状態の私である。私の昼夜逆転の完成である。これでも相当に節煙には役立っている。何しろ昼間するべきことが出来ないというのが『昼夜逆転』の始まりである。

彼女(孫)が順調に成長して反抗期を迎えるようになったら、たぶん喫煙もするようになるだろうから母親の目を盗んで一緒にタバコを吸おうかな。今のところひそかな私の楽しみである。その前に、もうすぐ生後1ヶ月を過ぎると彼女の母親は嫁ぎ先へ戻っていく。私には彼女が側にいなくなる寂しさとともに昼間禁煙を強いられる強い原因がなくなる。私の節煙法がなくなり、昔どおりのヘビースモーカーになってしまうのか、昼夜逆転が解決するのか?生活習慣とはそれほど簡単に変えられるものではない。しばらくは昼夜逆転が続くことになろう。

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