NPO法人 ニュースタート事務局関西

直言曲言 第148回 「函館」

By , 2006年1月3日 4:17 PM

終着駅が好きである。お正月早々終着駅で縁起が悪ければ始発駅でも同じである。映画の一シーンなどでも良く出てくる。もちろん、映画の題名にもなる。イタリアのローマのテルミニ(終着駅)などである。終着駅は最後の駅だから次の駅はない。たいていはホームがいきどまりになっている。かまぼこ型の屋根である。ドラマの始まりや終わりにさまざまな出会いや別れが待っている。『ひまわり』という映画ではソフィア・ローレンが北部戦線から帰るはずのマルチェロ・マストロヤンニをさがしていた。別れがあり、出会いがあり、時にはすれ違いや出会えないこともある。それが人生であり、旅の縮図である。

私は終着駅が好きで、世界中旅をすると飛行機で行ったところでも、わざわざ鉄道駅まで終着駅を見に行く。パリやロンドンも途中駅だが長距離列車が着く到着駅なので終着駅の雰囲気があった。私が見た(乗降した)中で最も終着駅らしかったのはロシアのウラジオストック駅である。

ここはシベリア鉄道の終着点であり、到着した列車を見ると、始発駅から終着駅まで乗る人は滅多にないはずだが、異なる大陸を駆け抜けてきた風格が光っていた。アジアのはずれにあるのに、明らかにヨーロッパの香りがしていた。私は夜の八時ころの夜行に乗ってハバロフスクへ翌朝着いただけだが、このまま七泊も乗っていればモスクワに着くかと思えば大きな感慨だった。一般に日本人から見ればそうだが、欧州でも中国でも広軌の鉄道は日本よりも広く大きく見える。日本のように島国ではないだけに、遠くから来たんだと言う感懐も一層である。

終着駅は日本国内にもある。上野は東北線の終着駅である。今では東北新幹線の始発駅も東京駅になってしまったため上野が東北のターミナルという気がしなくなったが、家出人の名所である点でも日本最大の終着駅である。大阪で言えば、さしづめ、天王寺駅。天王寺は紀勢線の終着駅ではあるが、関西本線ではもうひとつ市内よりに湊町という駅があった。本州最北端とか九州最南端とかと言う駅があって、たいていはそこが終着駅である。そこから先には線路がなく海が広がっている。

島国である日本の場合、そこが日本の終着点であるとは限らず、そこから先に連絡線や船便が続いている場合がある。函館もそんな駅のひとつ。数年前までは青函連絡船がつなぐ北海道の入り口の一つであった。今は青函トンネルが開通したため、連絡線は廃止となり、やがて新幹線があっという間に青函海峡の荒波を越えていくことになる。

函館駅は青函連絡船が着いた駅だから、今でも駅は町のはずれ、港の正面にあり、北海道内の各駅を結ぶ路線や(今では青函トンネルを経て)本州各地を結ぶ路線も港に向かって右側に広がる。北海道有数の都市の駅だから鄙びた雰囲気を期待したわけではないが、しらーっとしたさびしげな駅である。送迎デッキが二階にある。二階から見下ろすと右から線路が入ってきてホームが並び、一番手前が近隣の路線らしく、一番頻繁に列車が発着し、しかも一両か二両の短い編成である。送迎デッキから遠方のホームは北海道内や本州からの長距離路線らしく特急や急行などが発着し、しかも次の目的地に向かって出て行く。たいていは函館が終着地ではないらしい。乗降ホームから出て駅の改札口に向かうホームに直角コースに出てくると、昔の青函連絡船の雰囲気が残るらしく遠距離客も近距離客も例外なく緊張した面持ちである。

私は5ツ下の妹が函館にいて、近年は甥や姪の結婚式などで函館に行く。函館に特に思い入れがあるわけではないが、好きな町の一つである。北海道といえば寒い。真冬の阿寒湖や釧路にも行ったことがあり、この辺りの冬の寒さは喩えようもない。小樽や札幌の冬も知っている。札幌の近くで地吹雪にあったことがあり、それはすさまじく『北海道の冬を侮る』つもりはない。それでも函館の冬など知れている。北海道といってもほんの入り口、建物などをみても北海道の中央部から奥のように二重扉にしてあるわけでなく本州と同じである。それでも青森よりも北にあることは間違いなく東北の豪雪地帯よりは寒いのである。

函館といえば夜景が有名。私も函館に行けば夜景に限らず必ず函館山に登る。それだけ名所が限られているということでもあろう。あの函館の夜景のくびれたところの右側は太平洋だが、その辺りにあるのが居酒屋『海のガキ大将』である。啄木の歌に『東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたわむる』の一首が在るがその啄木の歌碑のすぐ近くである。

酒飲みの私は、うまい酒を飲みたくて妹に良い居酒屋を聞いておいたのだが、『海のガキ大将』はその一軒である。この名の店は有名チェーン店らしく函館駅近くにももう一店あるが、どうせなら東海沿いのこの店が眺望の点でもお勧めである。居酒屋など今や全国チェーンの居酒屋もあるくらいで、どこへ行っても同じように思うが、さすがにこの店は『海のガキ大将』というネーミングの特異さとともに北海道らしく海産物の宝庫であった。海老・かに・イカの各種など一通りの海産物は頂いたのだが、細かくはかけない。

何しろ『かに』といっても何種類もある。毛蟹、花咲ガニに、たらばカニ、それにズワイガニもある。さらにボイルだとか刺身だとか調理法まで言えばきりがない。せっかく函館に来たというのでイカの『塩辛』まで食べていると、函館に暮らしている妹一家はさすがに食べなれているのか、あきれてポテトチップスなどを注文していた。

函館といえば食べ物屋の記憶が鮮明。函館駅のすぐ南側は市場街で有名な『函館朝市』ここではどんぶり飯に生うにやイクラを山盛りにしたうに丼などが有名。びっくりするほどうまいとも思えないが三千円以下でうになどが思いっきり食べられるのだから、贅沢といえば贅沢。その他ここではお土産あさりはそこそこにして露天での試食に力を入れたい。適当に冷やかしながら、食べ歩いていると順繰りに腹も減ってきて時間が経つのを忘れる。あまり同じものを大量に食べずに、少しずつ多品種を食べるのがコツ。

居酒屋や露天など、北海道に行ってもまともな高級店に行っていないのが分かるが、本当に美味しいものを探したいのなら高級店などに行ってはいけない。函館の市場街からさらに南、函館ドックの近くに差し掛かると、そこは倉庫跡。一角に派手なネオンが点滅する小さなお店。店内に入るとベンチやいす代わりブランコが置いてある。ここはファーストフードの店『ラッキーピエロ』である。もちろんおいしいソフトクリームなども看板メニューのひとつである。どうやら函館市だけにあるチェーン店らしくユニークな店。他のファーストフード店と同じく、ハンバーガーや飲み物。ただし鯨のハンバーガーなどがある。

函館という町と『鯨』に地域性があるのかどうかは聞き忘れたが、奇妙な組み合わせがかなり気に入った。ただしこの『ラッキーピエロ』はアルコール類はおいていない。いくら気に入っても、お酒がなくてはおじさんたちには無縁なお店。と思っていたら、隣にあるのが『清水』というコンビニかミニスーパー、こちらにはお酒類がおいてあって、しかも店を出たところにあるベンチは『ラッキーピエロ』と共有で使い放題。これならおじさんも若い人といくらでもつきあえる。

2006.01.03.

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