直言曲言 第114回 「非通知設定」
私自身の活動の特殊性や事情から携帯電話の番号を半公開にしている。普通はニュースタート事務局関西に用事のある方は事務所に電話していただいている。しかし、西嶋に名指しの用件や西嶋でないと答えられない案件もあり、そんなとき事務局長に私の携帯電話の番号を伝えていただいている。面談の申し入れや、急な電話相談、例えば『息子が今、暴れているがどうした良いのか?』のような電話もある。事務所に事務局長が不在のとき(夜間や早朝、あるいは休日など)には鍋の会や例会への参加申し込みもある。『一体、どれくらいの人が私の携帯番号を知っておられるのだろうか』と不安になることもある。事務所や各種会合に参加される若者の多くが私の携帯番号を知っている。私の面識のない人でも、何らかの機会に私の携帯番号を知り、メモをしていただいているらしい。何らかの不安を抱えている人が、私の電話番号を記憶していて、必要なときには番号を呼び出してくれることはくれることは喜ばしいことである。面倒だ、うるさい、などと思ったことはない。
携帯の呼び出し音がなると、おもむろにポケットから取り出して、画面を見る。こちらで事前に登録してある相手だと、その氏名が表示される。そうでない人の場合でも普通は相手の電話番号が表示される。するとたいていは通話終了後、相手の氏名を登録する。次回に電話が掛ってきたとき、あるいはこちらから掛けようとするときに便利だからだ。電話が掛ってきたとき、相手が公衆電話からだと『公衆電話』と表示される。これは仕方がない、自宅からの外出時に電話をすることもある。携帯電話を持っていない人もいる。
困るのは、あるいは少し不愉快な思いをさせられるのは『非通知設定』と表示されることである。 『非通知設定』とは電話を掛けた相手に、自分の電話番号を知られたくないからわざわざそのように設定し、電話番号を表示しないようにするシステムである。どのような人が、どのようなときにこんな設定にするのか考えてみた。分からない、不特定多数の人に自分の電話番号を知られたくない気持ち、これは分かる。ストーカーやいやがらせ電話、あるいは無遠慮な電話セールス…。確かに迷惑である。だから電話帳に氏名や電話番号を掲載しない方法もある。
しかし、これらは知らない相手から電話が掛ってくる場合である。自分から電話を掛けるとき、相手に電話番号を知られたくないとは、どんな場合なのか?自分がストーカーであったり、嫌がらせの電話を掛けるとき?何かを抗議したいのだが、相手の仕返しを恐れて匿名にしたいとき?これは分かる?しかし、そのために『非通知設定』にしているとすれば、この人は始終他人に抗議をしているのか、それとも抗議以外の電話のときに、相手に大変失礼なことをしていることに気がついていない。
元々、電話は文明の利器であるが、ときには大変迷惑な通信手段である。電話掛ける人は何かを伝えたいとき、電話機に向かって用意を整えて掛けるのであるが、電話を受ける側は何の準備もしていないときに電話が掛ってくる。時間も、深夜や早朝を問わない。トイレに入っているとき、入浴中、自動車の運転中に掛ってくる携帯電話もある。もちろんこんなときには電話に出なくても良いし、留守番電話にしておくことや、『ただいま自動車を運転中で、電話に出ることができません』などのメッセージを流すこともできる。近い将来、双方向の映像通信(いわゆるTV電話)が可能になれば入浴中の電話など、どうなるのだろうかと変な心配をしてしまう。
ところで、かの『非通知設定』の電話なのだが、匿名の抗議電話ならまだしも(幸いなことにこんな電話を受けたことはまだない)、れっきとした依頼の電話や相談の電話であることが多い。先方から依頼の用件で掛ってくるのに、なぜ『非通知設定』にしているのだろうか?面談の約束などをして電話を切ったあと、伝え忘れたことがあって、コールバック(電話を相手に掛け返す)をしようとするのだが、相手の電話番号は『非通知設定』であって表示されていない。そんなとき、非常に腹立たしい思いをする。自分では、相手の電話番号を知っていて、自分の用件は電話で伝えるが、自分の電話番号は『通知』しないのだから、相手からは掛けることができない。こんな一方的なやり方は、まさに『通知』であって『コミュニケーション』というに値しない。
『非通知設定』なんて常識に属する問題なのかもしれないのに、こんなことに腹を立てるなんて、私はよほど変な人間なのだろうか?私はこんな『非通知設定』を乱用、常用している人はよほど『人間不信』の人たちではないだろうか、と疑っている。あえて言えばこうしたコミュニケーションに対する無神経、身勝手ぶりが、子どもとの対話もできず、子どもを引きこもりにさせてしまうのではないかと疑ってしまう。 もう一つ携帯電話で不思議に思うことがある。携帯電話が鳴る。何か仕事中であったり、携帯電話のありかが分からず探していたりして、時には30秒くらい電話にでられないことがある。
ようやく電話を手にして電話に出ると、タイミング悪く、電話が切れてしまう。この場合も『非通知設定』になっていると、こちらから掛けなおすことができない。しかし、非通知設定になっていない場合は『着信記録』が残っていて、相手の氏名や電話番号が分かる。すぐに掛けなおすのだが、相手の電話からは『留守番設定』のメッセージが流れる。電話が切れてから10秒と経っていない場合など『そんなことないだろう?』とうなってしまう。思うにこの人は10秒間で留守番設定をして、出かけてしまったのではなく、常に留守番設定にしているのであろう。
留守番設定にしているといやな相手の電話なら応対せずに済み、差し支えない相手ならあとで掛けなおすことができる。あるときなど、留守番設定で『メッセージを録音しますので、ピーツという音が鳴ったらお話ください』というから『○○です、ちょっとお話したいことがあるので…』と話していたら『あっ、○○さん』と相手が出て驚いたことがある。相手がメッセージを録音しているのを電話機の横で聞いていたのだろう。
『非通知設定』にしても『留守番設定』にしても、若い人の『賢い電話の使いこなし方』としていわば『常識』になっていることらしい。ストーカー対策や嫌がらせ電話の撃退法としてはなるほど便利な使い方かもしれない。しかし、余りにも自分本位で人間不信を増幅させるやり方ではないか?携帯電話にしても、最近の固定電話にしてもさまざまな機能がついていて、私などその半分も使いこなせず、電話が鳴ったらただ律儀に出るだけだが、 テクノロジーの発達がコミュニケーションの阻害にならなければよいと思っている。
2005.01.25.