「瓦版 オリンピック」高橋淳敏
よってらっしゃい、みてらっしゃい。
みなさんもご存じ。かつては古代ギリシャ人が、祭りの余興として催した運動や音楽などの各種競技。近代になって、国のお偉いさん方がご用意されましたスポーツの祭典。特に日本のあなたたちの先代が政治生命をかけて今回、この国に招致しました、ご存知オリンピック。アスリートたちが盛り上げる地球規模の一大イベント、我が日本国での開催は生涯に一度?見なければ損すること間違いなし、誰も肉眼では見ることもできない大金、巨額をかけた一世一代のスペクタクル。人間離れの肉体、驚愕の技術、なのに何故かヒューマンドラマ、感動のエンターテイメントですぞ。4年に一度やっている?いやいや、去年から延期したのです。そんな大会かつてないですぞ。事情がありまして、直接観ていただくわけにはいきませんが、ご存知みなの愛する金メッキ都市、日本という井の中では自分たちが中心にあると思い込んでいる東京、そんなところで開催されることはもうないですぞ。50年前あった?いやいや、正直今回はお偉いさん方も懲りましたようで。口が滑っちゃいましたか。たぶん100年、いやもう1000年単位で、今後、東京でいや日本でオリンピックの開催はないだろうこと請け合いです。とんでもなく希少な大会ということです。新型コロナ?さすが、もちろん知っていますとも、現在一世を風靡しているあの感染症のことですな。国のお偉いさん方も、この一年はそのことでずっと悩んでこられました。なんとかしてなかったことにできないかと。心配することなかれ、なんとこのオリンピック、その新型コロナなる稀代の悪者を退治してくれるのです。そのからくりは難しくはありません。現在、一年以上もステイホームなんて言われていますでしょ。躾けられた犬みたいに、ご馳走を前に待てと言ったり、うるさいから小屋へと帰れと言っているようで、国のお偉いさんたちにとっても、さすがに心象が悪かった。ご馳走があるわけでもありませんし、家には何もありません。国民に、ただ我慢をさせてきました。去年に引き続き、この夏も祭りもなければ、音楽イベントも学校の行事、宴会すら1年以上やっていないのです。流石にガス抜きが必要です。ほら、緊急事態宣言も効かなくなってきましたでしょ?そのところを、オリンピックはなんと。家の中での最高のエンターテイメントを、それもあなたたちが用意したという体裁で、みなさんに提供できるのです。ステイホーム、テレビの前でオリンピックを楽しむだけでいいのです。なんと楽な、なんと贅沢な。無観客で結構結構。チケットが売れなくても、お偉いさん方の懐が痛むわけではありません。痛むどころか、余計に儲かる。コロナは災害と同じ仕組みです。いつもと違うシチュエーションを、資本家はその差異にこそ価値を生み出すのです。資本主義社会においては、その差異にしか価値は無いので、不景気を脱却できないところに渡りに船でした。なんと賢いことでしょう。あなたたちも損することはありません。巨額の金はどこから?あなたの財布から一銭でも抜き取られはしましたか?いずれ雀の涙程度やもしれませんが、戻ってはきますよ大丈夫。そんなしけたあなたの財布の話しより、今はオリンピックです。楽しむことに集中しましょう、それでこそステイホーム。引きこもりを奨励する政策をするのです。さあ、注目ですぞ。といって、今回は競技場に直接行ってはいけません。テレビの前です、テレビ前。天皇もテレビの前へ。猫も犬も人間さまもテレビの前です。そう、感染拡大を防止する唯一無二の最終奥義、人流を防ぐ。家畜あつかいじゃないか?そういう気分もオリンピックを前にすれば吹き飛びますとも。オリンピックは、ワクチンよりも感染防止に貢献するのですぞ。これこそが今をときめくwin-winの発想、イノベーションともいうのかな。もう、本末転倒コロナに感謝をしなくてはなりません。オリンピックは政府にとっても国民にとってもいいこと尽くめ。しかも、コロナがあったからこそ、その価値は高まった。克服できていない?それはもう過去のことです。このオリンピック開催でこそ、コロナは克服できるのです。最高の大会にしましょう。その上、ダメ押しに緊急事態宣言を出しておけば、もうこれで人流について心配することはありません。ステイホームで視聴率も軒並み50パーセントを越えれば、補償もありますし何も問題はありません。これでひとまずオリンピック期間中の統治は心配することはありません。国民の安全と安心はここに保障されているのです。何を言われても国民の安全安心を守るとだけ言っておけば間違いありません。例え感染が拡大しても、開催の責任は問われません。因果関係が分かるころにはもう選挙は終わってますとも。オリンピックの評判が悪い?大丈夫、始まってしまえばこっちのもんです。ご存知のくせに、なんでもそうでしょ?近頃は。やっちまったもん勝ちですぞ。まさに、オリンピックという競技がそのことをまた証明してくれるでしょう。実行あるのみ。やめること?中止?まさか、そんなこと一度たりとして考えてはいけませんよ。言ったでしょ、そんなこと考えようとして会議を長引かせるような女はいらないと。まあ、ああいう言い方で問題になってしまいましたが、嘘を言ったわけではありません。会議ちゅうのは、話すことがあらかじめ決まっているのですから。閣僚会議もそう、国会もそう。みんなが思ったことを、口にはしないでしょ?決まったことだから、ちゃんと時間内に終わるのです。ほら、今までだって一度としてオリンピックをやめることが話し合われたことありましたか?そんなこと話したって収拾がつきませんし、始まってしまっては引き返せません。その点は、戦争と同じです。労働も、オリンピックも、ちゃんとやること、そして時間厳守が大事でしょ。大前提です。わかったんだったら、お偉いさんの方からもちゃんと国民へセールスの方、お願いしますよ。テレビの前です、テレビの前で国民の安心安全です。そのように言っておけば、誰も損はしないのです。それで一体何の競技が行われたかですって?見たには観たのですが、テレビの前でしか行われないので、実際どこでやられたのかも定かではなく、誰も観てはいないということで、すいません、よくわかりません。まあ、いいじゃないですか、この際そんなことはどうでも。
2021年8月21日 高橋淳敏