「普通なんてどこにある~NPO編①~」長井潔
お天道様はティッシュも配る
(普通なんてどこにある~NPO編①~)
「君の商品開発を進めてやってくれと他部署の課長が土下座していた」
開発が終わって半年後に聞かされた。
(知らない人が動いてくれたなんて…)
*
その後会社を辞めた。根拠のない自信があったため転職先は決めていなかった。若者を支援したい。ニュースタート事務局関西に出会い、当時の西嶋代表に初対面で参加を尋ねると、
「いいよ」と。
履歴書すら出していないのに。
若者への就労支援活動を企画提案した。会議では反対されたが代表はある助成金の応募を勧めてくれた。あっさり通り、活動が始まった。
半年後には他の人が別の助成金に応募してくれた。当日審査だけ行きなんなく通る。二つの助成金をバネに支援の活動は軌道に乗った。
近隣の精神科病院から院内の喫茶売店の運営を依頼された。患者さんに店員を頼むことが条件だ。誰かがやらねばならないので手を挙げた。家賃免除やタバコの販売など病院が協力してくれ半年で軌道に乗った。
自然と働き方が固まった。これは偶然なのか。
(いや、知らない人が動いてくれたのだ…)
*
就労体験の拡充のため新規事業がほしくなったが都合よく話は来ない。何でもいいからやろうと決めた。ガーデニング事業のNPOから誘われ、若者と病院売店の店員さん各一名と、草抜きに参加した。
腰が痛かった。
一週間後、病院の職員さんから「部屋掃除の仕事をしないか?」と。
これが新規事業になった。
実は、一緒に草抜きをした店員さんが病院の職員さんに喜びの体験報告をした。職員さんも喜び、それならと新たに紹介してくれたのだ。
人が動いてくれるようすが初めて見えた。
地域の人のつながりから、仕事は生まれる。自分が誰かのために動けば誰かが知らないうちに動いてくれる。
*
仕事に就くために普通なら、履歴書を書いて電話し面接に行く。履歴に空白があると難しい。
自営業なら自分で始められる。しかし成功するかは時の運だ。
地域の小さな仕事を始めても一人前ではない。しかし地域の誰かに助けられ、徐々に増える。
「お天道様が見ている」かのように。
ニュースタートを卒業した若者も、履歴書すら書かずに地域で仕事を始める人が増えた。
*
ある日河川敷をジョギングしていたら下腹が痛くなった。下痢か。走れない。
紙など持っていない。周りに店はないし人もいない。
タクシーを呼んで帰るしかないのか。久しぶりに走り切りたいのに。
そうだ、今こそ根拠のない自信を持て!
どこからか都合よく紙が見つかるのだ!
草原やごみ箱にはない。仮設トイレを二か所のぞいたがない。三か所めもトイレットペーパーの芯だけがむなしくから回る。
(…うん?)
(なぜ芯がある?個人で持つならティシュだろう?)
駐車場の管理室までゆっくり歩く。
「トイレの紙がありません」
にこっと笑って新しい紙をくれた。
根拠のない自信を持とう。日々をよりよく変える。誰かにも助けてもらえる。
2016、6,16 長井潔