NPO法人 ニュースタート事務局関西

直言曲言 第283回 「巨大献金」

By , 2009年12月15日 4:03 PM

巨大な献金が話題になっている。最初は鳩山民主党総裁(総理大臣)の政治団体に故人や実態のない個人の政治献金があるという疑惑だった。自由民主党による政治的陰謀ではないかという思いも強かった。鳩山総裁の個人秘書が独断で偽装したものだと分かり、秘書は解雇された。それにしてもそんな巨額の金の出所はどこなのか、鳩山氏自身だとすれば「秘書の独断」で済まされるのか疑問だった。調べが進むとお金の出所は鳩山氏の母親だとわかってきた。しかも金額は毎月1500万円、7年ほどで12億円に及ぶという。由紀夫氏だけでなく弟の邦夫氏にも同額がプレゼントされていたという。由紀夫氏はそのことをご存じなく、母親から由紀夫氏への貸付金であるという。しかし借用証などはない。この問題が社会的に明るみに出なければ、お小遣いとしてうやむやになったであろう。親が子に小遣いをあげるというのだから、世間がとやかく言う必要はない。しかし人が死後に子どもに資産を譲るには巨大な相続税というものがかかる。生きている間に譲ると「生前贈与」として「贈与税」がかかる。偽装による政治資金規正法違反はともかくとして贈与税の脱税の件は免れるまい。もとより鳩山氏側にしても、「知らなかった」こととして課税されれば納税を逃れようとはしないだろう。自民党の邦夫氏へも同額の献金があったことから、自民党としては民主党への一方的政治的打撃にはならないと思ったのか、秘書の政治資金規正法違反を在宅起訴して、兄弟の刑事責任は問わない方向で決着をつけようとしている。民主党支持者としては自民党の思うようにはならなかったことで「ひと安心」と思っている人もあろう。だが「12億円」もの闇の献金があり、違法に処理されていたことが合法的なのか?否、断じてそうではない。それでは何を根拠にして断罪されなければならないのか。

この事件はそれほど単純ではない。単純に断罪しようとすれば、お金持ちであることがいけないのか?ということになる。あるいは前首相である麻生太郎氏に関連付けて、麻生氏の祖父が吉田茂元総理であることやその外戚が麻生セメントであることなど、財閥と政治家の閨閥など週刊誌的な興味に終始してしまう。極めて単純に言ってしまえば、「お金持ちであること」殊に巨大な資産を自在に操れるということは「いけない」のである。鳩山由紀夫氏の個人的犯罪ではないが「犯罪的」な出来事なのである。そのように断罪しなければ我々庶民にとって救いはないし、及びもつかない資産を継いで生れてきた彼らに対し、抵抗するすべを持たないし,無力感に囚われて、社会変革の意欲さえ失いかねないのである。

くだんの献金主である鳩山兄弟の母とは、鳩山安子さん、旧姓石橋安子である。かのブリヂストンタイヤの創業者石橋正二郎氏の娘である。正二郎氏は旧知の政治家鳩山一郎氏の子息威一郎氏に娘安子を嫁がせ持参金として100億円以上の現金、時価170億円のブリヂストン株などを持たせたとされており鳩山一郎氏はこの閨閥形成と資金力で自民党結成や総理大臣になれたとされている。威一郎氏が鳩山一郎の遺産を相続したのも150億円以上といわれており両家合わせてどれほどの資産を持っていたのだろうか。資本主義社会でも富の過度な集中やその相続は不平等をもたらすものとして避けようとされている。相続税率は最大で50%にもなる。「どんな資産家でも3代相続が続けば資産はなくなる。」と言われており江戸川柳にも「『貸し家』と唐様で書く三代目」と詠われている。すなわち、資産家の息子に生まれ文字を唐様(中国風)に書くなど教育も施され、大事に育てられたが、同時に道楽も覚え、経営の才覚もなくついに家作も貸しに出してしまうといったような意味だろう。しかし御一新を迎え、さらには戦後アメリカ風の自由主義が席巻すると資産家の資産維持も擁護され、巧妙になっている。普通ならば相続財産は代を経るごとに、50%、25%、15%と逓減していくはずだが、さまざまな税率の逃れ方があるようだ。現代の代表的な資産形態は現金をはじめとする動産、株式や国債などの債券、土地や建物などの不動産がある。現金は額面通りだが、他の資産は購入時の額面は下回ることが多い。こうした資産に変えておけば相続税額は大幅に節約することができる。庶民である我々にはそもそも縁遠いことだがとんでもない人知を超えたような手法があるらしい。

よくある手法の一つは生前に寄付などを施し財団法人などを設立してしまうことだ。現在の巨大資本の株式会社などはたいてい系列の財団法人を持っている。財団法人なら目的外の収益事業は別として正味財産の増加そのものには課税されない。創業者の一族を会長や理事長にして高額の給与を払いながら一族の資産は事実上温存できる。財団法人石橋財団はブリヂストンの創業者石橋正二郎の発案により1956年に設立されている。設立目的の公益事業は「文化・博物館事業」となっておりブリヂストン美術館、石橋美術館の2つの美術館を運営している。2007年末の正味財産は1600億円余、設立時の初代理事には鳩山一郎の名も。石橋正二郎の息子で3代目石橋財団理事長・石橋幹一朗の遺産に対する相続税額は1000億円を超えていた。相続税の最高税率は50%だから遺産は少なくとも2000億円を超えていたことになる。その上に石橋財団など形を変えた資産があるのだから想像を絶する財産であったろう。

簡単に「想像を絶する」などと言ったが、どれほどのお金なのだろうか。1万円札が1万枚で1億円。その1千倍が1000億円。1千億円とは1万円札の束を積み上げると試算によると約2トン。2千億円だと約4トンになる。束というよりも山というのにふさわしい。こんなお金は誰も見たことがない。もちろん私も見たことはないが、ひょっとすると石橋正二郎氏も見たことはないのではないか。それほど「人間業(にんげんわざ)」とは思えないほどの金額である。1931年ブリヂストンを設立し一代で2000億円余に及ぶ資産を形成した。人間業とは思えないのは金額だけでなくその資産形成・会社経営を含めてである。1931年といえば太平洋戦争の始まるはるか前。そのころから1万人から1人当たり2000万円もの収奪を行ったことになる。今の鳩山由紀夫や邦夫兄弟には、あるいは母親の安子さんには直接の罪はない。しかし巨大献金の淵源は明らかに多数の労働者を長期にわたり収奪したお金である。これは石橋正二郎の個人的犯罪でもない。人間業とは思えないような蓄財を許してきたのは資本主義のシステムとそれを社会的に容認してきた政治システムである。このような経済格差の世襲を容認するのは人間的な不正義の容認である。政治とは究極的には富の配分システムである。自由民主党にしても民主党にしても不正義を容認する政党だと言わざるを得ない。

2009.12.15.

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