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直言曲言 第282回 「鍋の会」

By , 2009年12月7日 4:02 PM

毎月第2と第4日曜日、正午を過ぎるころになると高槻市富田のニュースタート事務局関西のドミトリー(第一共同生活寮)にはぼつぼつと人が集まり始める。テーブルを並べたりグラスを用意したり、これから始まる「鍋の会」の準備が始まる。やがてスタッフがやってきて今日のメニューが告げられ、肉や野菜を切ったり本格的に鍋料理の仕度が進められる。午後1時を過ぎると、スタッフのマドンナFさんが「そろそろ今日の鍋会を始めます。皆さんグラスを持って下さい。乾杯!」開会の宣言である。その頃メンバーは事務局スタッフを入れて約20名、その後も続々と人が集まって30分後には30名を超えた。メンバーは事務局員などスタッフが4名、他にもボランティア志望者が2名、引きこもりらしき若者が12名ほど,ご両親らしき大人が8名ほど、寮生が4名などである。これがいつもの参加者数。多いときには50名に近いときもある。共同生活寮2階のLDKと隣室のプレイルーム合わせて20畳ほどの空間であるがほとんど足の踏み場もないほどの満員である。

寮生にとっては昼飯を兼ねた鍋料理、真冬も真夏もない、いつも鍋である。真夏には冷やしそうめんになることもある。参加者の中には「この暑いのに鍋か」と露骨に嫌みを言う人もいるがいつも「鍋」。相撲部屋では食事のことをすべて「ちゃんこ」というらしく、ニュースタートでは共同食事会と言えば「鍋」。何しろ短時間で30人前もの料理を準備するのだから、鍋料理ほど手っ取り早いものはない。時にはバーべキューやカレーパーティのこともあるが、懐石料理などはあり得ない。誰かが料理人を4~5人連れてきて朝から準備をしてくれればそれでも良いが、形のよい器などはそろっていない。長年ため込んだ小鉢などは不揃いでよければ、寄付されたものが50人分ほどはある。

毎回鍋料理ばかりで「飽きないのか」と思う人もあろうがその点は大丈夫。材料は鶏・豚・牛肉・魚もいろいろ。野菜も農家の親御さんが新鮮なものを届けてくれ、味付けは塩・しょうゆ・みそ・中華風にキムチ味、トマト味やイカスミ鍋も。鍋料理の専門店のよう。午後1時に乾杯で始まり、しばらくすると鍋は煮えあがり、3つある土鍋のまえに座った人が自然と鍋奉行に。お父さんもお母さんもベテランスタッフも新人も無関係。小鉢にお玉でよそった鍋料理が各自に配られる。意外な美味しさにしばし無言でおかわりも進む。約1時間、何度か材料を追加して、参加者のお腹も満腹に近づく。Fさんが今日の自己紹介の司会役に誰かを指名する。指名された人はスムースに立ち上がり、今日の自己紹介のテーマを説明する。皆も慣れているのか「えっ自己紹介するの?」などと文句を言う人はいない。「鍋の会では話すのが苦手な人は話さなくてもよろしい。」なんて書いてあるのに自己紹介させるなんて約束違反ではないか?確かに「話さなくてもよい」というのは嘘。だって、鍋の会は一緒に鍋料理を食べながら、初めて会った人とも友だちになるのが目的。自己紹介くらい出来なくては。ただし、話下手の人はテーマなど話さなくても、名前だけ言ってすぐに退場してもOK。そんな人も30人いれば一人か二人はいる。しかし参加者のほとんどは物おじせずにしゃべっている。苦手どころか、自己紹介コンテストでもあるかのように楽しそうに話している。実は私も自己紹介など苦手なのだけれど、そもそも鍋の会は人付き合いに慣れてもらおうとしてやっているのだから文句は言えない。多くの人は何回か鍋の会に参加しているうちに、自己紹介のコツを学んでいき、楽しみにしているようである。

私たちニュースタート事務局関西は1998年10月に活動を初めて以来11年になる。鍋の会は記録によるとこの11月で220回目になる。記録に残っていない初期の開催を含めると延べ参加者はおそらく9千名になるだろう。スタッフや重複参加者を除いても約2000名の人々と出会ってきたことになる。ニュースタート事務局関西はそのほかにもさまざまな定例的な活動を行っている。毎月1回の定例会合「引きこもりを考える会」、 「個別面談」、「父母懇談会」、「NSP訪問活動」、「共同生活寮運営事業」、「就労支援活動」いずれも欠かすことのできない重要事業である。しかし、何らかの理由があってどれか一つに事業を限定しなければならないとすれば私は迷わず「鍋の会」活動を取る。他の活動の多くは「鍋の会」活動を続けるための事業でもあるからである。それと、私自身の実感からすれば「引きこもり」の根本的症状である「対人恐怖・人間不信・友人拒絶」などを緩和する直接的・具体的活動は「鍋の会」活動を超えるものはないからである。ご存知の方も多いだろうがNPO法人とは「特定非営利活動法人」。つまり株式会社のように出資者に配当(利益)をもたらす目的で設立された法人ではない。ここで誤解が多いのはNPO法人が一切お金を扱わない法人ではないこと。例えば「訪問活動」一つとっても、交通費もかかるし通信費もかかる。担当者の生活費もかかるのだから、報酬も必要となる。「報酬」が出るとNPO活動やボランティア活動でないと思うのは大いなる誤解である。われわれは政府や自治体から資金や援助費を交付されているわけではない。すべて「引きこもり」やその父母から活動の受益者として費用のご負担をいただいている。NPO法人でもその活動目的を支えるために販売活動や営業活動をすることができる。それを「収益活動」それ以外を「非収益活動」という。「鍋の会」は非収益活動である。鍋の会は参加費無料である。ただし活動を永続させるためにも参加者にカンパを募る。

さて、そもそも「鍋の会」にはどのような意義があるのか?私は「人間は元来、共食共同体である」と考えている。家族はともに食事をすることによって一家を支えてきた。会食をするのは霊長類固有の行動であるそうな。サルでも共食行動は見られない。ボスざるがえさを食べる間、メスや子どもは恐る恐る控えていなければならない。最近人間の間でもこの共食行動がすたれてきた。家族が一緒に食事をとらない家庭が増えた。外食でも顔を合わせずに一列にカウンターに並んで食事をする牛丼屋やハンバーガーショップ、回転ずしなどが増えた。一緒に会話をしながら食事をするということは警戒心をほどいて、人間同士が仲良くなるための最大の近道である。鍋の会はニュースタート事務局の専売特許ではない。全国の引きこもり支援団体の皆さん、どうぞ「鍋の会」でも「共同お食事会」でもよろしいから開いてあげて下さい。大人たちだけで「愚痴」を言い合う「懇談会」などよりはるかに具体的に引きこもり解決のための役に立つでしょう。

2009.12.07.

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