NPO法人 ニュースタート事務局関西

直言曲言 第54回 「白と黒」

By , 2002年7月20日 5:43 PM

 『白と黒』のように対立する二つの概念を並べてどちらが正しいかを選択するような考え方を『二者択一』,また,そうした対立という捉え方そのものを『二項対立』と言う.あるいは相対する二者からどちらかが正しいと決めつけることから『一元主義』と言ってもよい.

 世の中はさまざまな価値観が混在する『多元主義』になっており,ある意味ではますます『複雑化』しているのに,『二者択一』や『一元主義』のように単純化してしまう思考法がむしろはびこっている.複雑思考に耐えられず,ものごとを単純化することによってむしろ思考の迷路から抜け出そうとしているかのようにも見える.

 私のお気に入りのあるホームページがある.ご当人が『回避性人格障害』だと自認されている管理人が主宰しておられ,その掲示板にはやはりさまざまな『精神的障害』を持つと自認される人が書きこみをされる.自分の状態や悩みを書き込まれるのだが,それに対するレスポンスがまた気配りと優しさに満ちている.私はその書きこみやレスポンスのスタイルを『癒〔いや〕しの文法』と勝手に呼んでいて,ほとんど毎日その掲示板を覗〔のぞ〕きに行っている.
  しかし,そのホームページにも,私の気に入らない点がいくつかある.一つは『DSM‐Ⅳ』と呼ばれている米国精神科医学会の判定マニュアルが掲示してあって,読者はそれを見て「〇〇性人格障害」に該当〔がいとう〕するかどうか(幾つかの項目中一定以上の項目が当てはまれば該当すると書いてある)を自己判定できるようになっている.

 この掲示板に書きこまれている内容を見れば,自分の心の動きをコントロールできない人が多く,判定マニュアルを見て当てはまるものがあると,『私は回避性人格障害です』とか『私は境界性です』とか書いておられる.私に言わせれば,こうした『〇〇性人格障害』というのは精神科医が診療報酬を請求するために便宜的に名をつけた『性格の分類』にしか過ぎないのだが,こうした『〇〇性人格障害』を自称する人はどこか『同病〈相憐〔あいあわ〕れむ〉の仲間』を見つけたように,むしろそれまでの孤立から抜け出した<安心感>のようなものが文面に漂〔ただよ〕っている.管理人さん自身が同病の仲間を集めるためにこうした表示をしたとまでは言わないが,結果としてこうした人がたくさん集まる人気ホームページになっている.

 人間というものは,自分自身のことを一番知っていながら,自分で『自分はこういう人間である』ということをなかなか納得できない.だから,人から『あなたはこういう人間です』というように決め付けられると,反発する反面,その「外部規定性」に案外左右されやすい性格を持っている.例えば,『あなたの血液型はA型だからコレコレこういう性格である』といわれると,信じるとまでは行かないまでも,何となく言い当てられた気持ちになる人が多いらしい.
  別に血液型や星座占いの類に目くじらをたてるつもりはないが,こうした血液型『迷信』を本気で信じている科学者も多く,お医者さんの中にもこうした人がいるから不思議である.手相・人相・八卦見〔はっけみ〕の類は信じなくても,血液型に信奉者が多いのは,血液が生命維持の重要な要素であり,血液検査などによりさまざまな病気を発見したりすることができる『科学的分析』や『検査』の対象であるからではないのか,というのが私の仮説である.

 もちろん血液型検査とはA,B,Oなどの共通した抗原を持つ四種のタイプに分けるだけの分類であり,それぞれの血液型の血液中に性格や気質を特徴付ける細胞や分子や遺伝子の存在を分析したり,研究したりの学術成果でないことは言うまでもない.そんなことを力説すること自体,ばかばかしいことなのだが,世界中の何十億の人間が四つの血液型によって,四つの性格に分類されると信じてしまっているとしか思えないような人が驚くほど多くいるのも事実である.

 実は最初に示した『○○性人格障害』の診断基準〈DSM‐Ⅳ〉を見て,『自分は回避性人格障害ではないか』などと考える人の多くも『分析や検査』に依存する科学信仰に囚〔とら〕われていて,こうした一見科学的粉飾をまとった基準を見ると,簡単にそう思いこんでしまうらしい.各人格障害については7~9項目の診断項目が示されていて,そのうち4~5項目に当てはまるとその人格障害だと診断されるらしい.
  私自身こうした診断基準を使って自己診断をしてみると,示されている7つの『人格障害』のうち,3つの『人格障害』に該当することになる.私などはほとんどがその4~5項目程度の該当である.こうした診断項目にすべてが当てはまる人は,やはりどこか神経質過ぎるかなと思うが,まったく当てはまらないと言う人がいたら『鈍感』過ぎると言わざるを得ない.
  そのうちの一つに『境界性人格障害』というのがあり,これはかつて『神経症』と『精神病』の境界領域にあるとして『境界例』と名づけられていたものです.私などはこの『境界性人格障害』に該当するかどうかの境界領域にあるようですから,精神病と神経症の境界例の境界領域にあるようです.

 心に悩みを持つ人が,こうした診断基準に当てはめてみて,自分の性格を『こういう傾向がある』と判断をするのは構わないだろう.あるいは同じ『人格障害』の仲間と同病相憐れむ対話を交わすのも良いだろう.血液型占いでお気に入りの異性との相性を判断したり,星座占いで今日の服装は何色にしようと決めるのと同じ程度の他愛無い気鬱〔きうつ〕防ぎにはなる.
  ところが,先述のホームページを見ていると,それでは済まない人もいるようだ.最初に書いたように『白と黒』『正常と異常』の二項対立の思考も蔓延〔はびこ〕っており『人格障害』への該当=異常=病気と短絡する人が少なくないからである.

 私は『引きこもりは病気ではない』と主張しているが,自分が病気であると自覚している人は専門家の診察を受けられれば良い.
  ただし,専門家である以上,その『病因』と『治療法』を的確に説明できる専門家を選ぶべきである.それが分からず,説明できず,『とりあえずこの薬を飲んで見なさい』と言うような専門家は避けなければならない.専門家を盲目的に信じて依存するのは,自分の理性や判断力を捨ててしまうのに等しく,やがて本物の病気にされてしまっても自力で脱出することが出来なくなる.

 もうひとつ厄介なのは,自分が『○○性人格障害』=『病気である』との診断を得て,『引きこもり』を正当化し,引きこもりに安住する人たちである.引きこもりは内的な社会システム批判に発する行動であるが,現象的には社会的逃避であり,それそのものが『病気ではない』にもかかわらず『病気』を理由に,そこに安住しようとするのは明らかな自己欺瞞〔じこぎまん〕である.

 ところで,血液型占いの話にもどるが,通常よく言われている各血液型別の性格について言うと,私はすべての血液型が持つ性格を併〔あわ〕せ持っている.私はA型でもB型でもAB型でもO型でもない,ジョーカーのようなものなのでJ型と自称しようかと思う.
(7月20日)

コメントをどうぞ
(※個人情報はこちらに書き込まないで下さい。ご連絡が必要な場合は「お問い合わせ」ページをご覧下さい)

Panorama Theme by Themocracy | Login