本当の個性
衣食足って礼節を知る.これは,衣ならユニクロでも満足で,食べ物なら大衆食堂でも満足している場合にあてはまる.しかし,欲望を煽〔あお〕る資本主義社会は,それらでは決して満足しない人間を作る.服のスタイル,食べ物の嗜好〔しこう〕が個性を作り出すと煽られて,若者たちはいろいろな格好や髪型をし,欧風食を好み,洋風の生活スタイルが個性だ,個性だと言いはる.女子大生やOLはヴィトンだプラダだを持つ事が個性だと言い張る.そんなものは,はっきり言って個性ではない.今の日本は,欲望を煽るだけ煽り,若者に心の大切さを放っておかせ,愚かな消費者,未熟な自己のままでいさせようとする.
ベンツに乗った親父たちに,アフリカの飢餓を見ては節約節約,企業によいしょしては消費せよ消費せよ,と矛盾した事を言われて,あいつらは愚かだな,うわべだけだな,と開き直れて自分なりに納得すれば,社会でやっていけるが,素直で正直な若者たちのなかには,そんな矛盾に対して,世間からいい子に見られたいがために,なんとか頑張ってみて,実践してみるも,自分のやった事に対して違和感を持ち,ひきこもる者もいる.
そういう若者の多くは,いい大学に入れば,親からも誉められ,社会からも尊敬されると鵜呑〔うの〕みにし,必死でいい大学(ここでいういいとは,ブランド的にいい,偏差値の高いという意味)に入るも,心をどこかに置き忘れ,友達関係を上手く結べなくなって,私たちの門をたたく.
若者たちよ,今までよくそんな不幸なままでいたなぁ,つらかったろうなぁ.と私は思う.金持ちになることはそんなに重要な事だろうか,みんなに誉められるのはそんなに大切な事だったろうか.
今まで,親の価値観,世間の価値観を一生懸命自分のものにしようと頑張ってきたのだから,自分の本当の感じ方がわからなくなっているとは思う.しかし,今からは,自分の心に正直である事が本当の幸せに結びつく事をわかって欲しい.誰から何を言われても動じない自分のポリシーを作って,それに向かって歩いていけばいい.それを非難する権利は誰にもないんだから.
あなたが子供時代には,親たちは,この言葉は言わない.それは,あなたが子供で,はっきりしたものをもっていなかったのだから.でも,あなたはもう自分でも驚くほど大人になっている.自分を信じて歩いていける.自分を信じる事で,他人を信じる事ができ,あなたがあなたのままで,他人のなかで受け入れられることを実感できるのだから.
私は,若者たちに,社会が置き去りにさせてきた,本当の心の感じ方も体得してもらいたいと思っている.確かに,学校も週休2日にするなど心のゆとりを持たせようと考え方を改めつつある.しかし,今までの価値観を教え込んでいただけなら,休みを増やすだけでは,塾に行くのが増えるか,ゴロゴロしている時間が増えるのがオチである.今の日本の不景気は,アメリカに経済的な戦争で負けた事であることは事実である.まさに今のままの,アメリカ重視の考え方では,アメリカ資本が日本を埋め尽くし,日本の個性が日本から消えてしまう事にもなりかねない.これからの日本を支えていく若者には,私たちが会社人間であった反省を踏まえ,真の自己実現を果たして,本当の個性を掴んで,幸せに暮らしてもらいたい.決して日本は精神的な戦争では,負けてはならない.
エセ嶋 彰