引きこもりの男女差
引きこもる人には男性の方が多いと言う.まことしやかに『引きこもりの9割以上は男性である』と言う説もある.確かに,あちらこちらのカウンセリング機関を渡り歩いた人の話では,『女の方はほとんどいらっしゃいません』というようなことも聞く.
ニュースタート事務局関西が持っているアドレス帳では,約300名のリストの中で引きこもり相談の対象が女性と判明しているのは約30名.確かに少ない.ただし,300名強のリストのうち,サポーターその他が約50名.引きこもりの親だが,子どもの性別が不明なものが60〜70名おられるので,正確な男女比は分からない.
引きこもりに男性が多い,女性が引きこもりになりにくいとすれば,何故だろう? 引きこもりに関する信頼できる調査結果はまだない.いじめや不登校についてのさまざまな調査はあるが,そこに顕著な男女差があるという話は聞いたことがない.
引きこもりの特徴は,対人恐怖が強く,友達が作れないということだが,こんなうがった見方もある.『引きこもってしまうまじめな男性は<ナンパ>などできないが,女性の方は<ナンパ>される側なので,友達ができやすい』というものだ.
しかし,これはかなり疑わしい説である.引きこもりの男性がまじめなのはその通りだが,女性も同様で,とても,<ナンパ>されて彼氏ができてしまうというような,<軽い>人がいるとは思えないのである.
最近,ニュースタート事務局関西の会合には若い女性の参加者が増えてきた.例会や鍋の会には毎回3〜4名の参加者がいる.常連参加者ではないがときおり参加される人を含めると,7〜8名の若い女性の顔が浮かぶ.鍋の会は最近25名前後の参加者で,やはり,サポーターやお父さん,お母さん参加者もいるので,少なくとも若い女性の参加比率は20%を超えている.
引きこもりの中に女性が少ないのではなくて,引きこもりの女性がこうした会合に参加する比率が少ない,ということが考えられる.
引きこもり関連のホームページの投稿欄などを見ていると,女性の投稿に対して卑劣な<からかい>の文章などが浴びせ掛けられることが多い.こうした風土を持つ集まりだと,女性はおいそれと<オフ会>(インターネット上での対話ではなく=つまり,オンラインではなく,フェーストゥフェースで会うこと)などに参加できない.
手前味噌であるが,ニュースタート事務局が主催する例会や鍋の会では,こうした若い女性に対する侮蔑的な態度はほとんど見られないし,信頼できる雰囲気がホームページなどを通して広がってきたから,女性参加者が増えてきたと考えられる.
会合への参加以前に,引きこもりなどの相談機関に親から寄せられる<相談>の数自体が<実態>よりも少ないことが考えられる.男性の引きこもりの場合でも,親は近所や世間を気にして<相談>に来たこと自体を知られたくないと考える人が多い(事務局からの通信などを個人名などの偽名で送って欲しい,という依頼がある.)
引きこもりの対象者が女性である場合,近所のうわさや縁談への影響を考えて,娘がひきこもりであることをひた隠しにしている事例が多い.こうした結果,比率は少なくても,事務局に寄せられる<相談>例などでは,女性の方が<重症>と思われるケースが多い.(引きこもりの親がわが子と<世間>の間を遮断してしまうと,引きこもりは長期化し,深刻化する)
若い女性が自宅に引きこもっていて,通学や仕事をしていなくても,<家事手伝い><花嫁修行中>などの名目で,男性ほど<問題視>されない社会風土がある.親自身も本気でそう思い込んでいて,娘が引きこもりであることに気づいていないこともある.親は,息子の場合と比べて,娘の引きこもりに鈍感である.今,ニュースタートの会合に参加されている若い女性が7〜8名いると書いたが,これらの方はすべて何故か,親御さんの<相談>によって会合に参加されるようになったケースではなく,ご本人がHPなどでニュースタート事務局の存在を知って,アクセスされてきた方々である.
女性の場合,本人が自覚的に引きこもりから脱出しようとしないかぎり,親や周囲の勧めで社会接触する機会が少ない.もちろん,<重症>の引きこもりの場合は,本人が直接こうした場に出てくるのは困難だから,ますます潜在化してしまう.
これと逆のケースを考えて行くと,引きこもりに男性が多い理由というのも,ある程度納得できる.現代の日本はかなり近代化されてきたものの,依然として男性中心社会であり,家父長社会的な考え方が残存している.長男の場合,<家を継ぐ>という役割を押しつけられ,次・三男の場合,逆に自立して<家を起こす>ことを要求される.いずれにしても,女性の場合とは違って,家でごろごろしている事は許されず,就学・就労や社会化への圧力が強い.
こうした親からの<圧力>が引きこもりを助長することになるのは,既にご存知であるだろう.しかし,親の<圧力>はあくまでも,引きこもりへの補助線のようなものであり,実際には,引きこもっていく本人の<意識>が引きこもりを作って行く.本人の意識が自立志向が強く,しかも,その自立を阻む何らかの要因が存在すると,引きこもりは男女の差なく発生することになる.従って,女性の場合,優秀で自立(志向)的な女性ほど引きこもりになりやすいとも言える.
地方の国立大学などへ行くと,その地方の有力進学高校で成績がトップクラスであった女性が多い.男性なら親は喜んで,東京大学や早慶クラスへ進学させるのだろうが,『女の子なのだから』という理由で親元を離れることを許されず,妥協策として地元国立大学に進学させられているのだ.
こんなのは,ざらにある話でそれ自体は対して問題化されていないのだが,案外,女性の引きこもりはこうしたケースから発生している.彼女らは優秀で,自立志向があるのだが,それを抑圧されているからである.
引きこもりには女性が少ないと見るのか,あるいはその理由をどの様に考えるのか?すべては私達の考え方や社会システムの中に原因があると考えるべきだろう.
(9月29日)