若者の就業
フランス各地で若者の「暴動」が起こったり、最近は300万人(主催者側発表)を超えるデモが行なわれているのをご存知だろう。1960年代の末にパ・リソルボンヌ大学ナンテール校の授業放棄に端を発した「カルチェラタン」(5月革命)闘争が、日本の全共闘運動を始め世界的な若者の叛乱に飛び火した経験を持つ私たちは無関心でいられない。300万人と言う数字は主催者側発表なので信用できないのかもしれないが、警察発表でも100万人、日本の安保闘争(1960年)のあの昂揚の時でも国会周辺をうずめたデモの波は10数万人と言われ、日本の人口の約半分に過ぎないフランスで、この高まりは殆ど革命前夜と言えるほどの反体制運動がおきているのだ。
このフランスの若者暴動の話を最初に聞いたのは、昨年末、イスラム系若者を中心とする暴動とのことだった。フランスだけではないが、ヨーロッパの先進各国では北アフリカ各国からの移民が多く、産業発展の下支えをした。しかも彼らには現在仕事が無く、一般に比べて失業率が異常に高い。暴動はこうした移民の若者の不満を中心にしたものだった。
サルコジ内相は暴動の真因には触れず「ならず者たちの無軌道な暴動」として力で弾圧しようとした。しかし、暴動は政府の失政が原因で、若者の失業率の高さは北アフリカ系移民やイスラム教徒に限らず全国民的課題になっていた。今回の大規模デモは若者雇用政策と称して「26歳以下の若者を雇用した場合、2年間は理由を告知せずに解雇できる」とする「初期雇用計画」(CPE)と言う悪法の国会上程を巡る騒動であった。
これでは『ならず者』たちではなくても『反対』するのが当然である。デモのあまりもの大きさに恐れをなしたドビルパン首相はこの「初期雇用契約」を部分改定したり、4月10日には上程そのものを断念した模様だが 、失業問題を根底にした国民の政治不満はこれからも募りそうだ。 若者の失業といえば、わが国日本でも大問題になっている。
フランスなどヨーロッパでは、移民の増加が根底にあるようだが、日本ではグローバルエコノミーが原因だ。経済の国際化により、大企業は製造設備(工場)を海外移転し、日本人よりも人件費のはるかに安い中国人や東南アジアの人々を海外で雇用するようになった。おかげで日本人の失業率は激増、特に若者たちの新卒就職などは激減した。
こうした日本産業の国内空洞化の以前から、バブル崩壊などで大不況に陥っていた日本は、日経連などが堂々と「派遣社員やパート労働者」などを雇用して、正社員の削減による人件費の削減を主張、いわゆる「フリーター」激増の時代の幕を開いたのである。 「移民増加」と経済のグローバル化という直接経緯は違うものの、結果として若者に「しわ寄せ」をする結末は何と酷似していることか。
「移民」問題も海外労働者の増加問題も原因が別問題とはいえない。要するに、資本主義による経済の不均等発展の結果、海外の労働力(資源)に依存せざるを得なくなる。それで大企業はちっとも困らないどころか、史上空前の利益を上げている。ところが国民には階層格差が広がるが、それでも全体には豊かさが目立つ為に不満は抑制される。
その矛盾を若者にしわ寄せしようとする動きが強まる。 フランスの今回の法案「26歳以下の若者は理由を告知せずに解雇できる」と言うのも驚くが、日本の若者「フリーター」に対する雇用政策も似たようなものである。それどころか、フランスでは悪法ながらも「法制化」しようとしたが、日本のフリーターの場合、低賃金、非正規雇用、解雇自由と言うのは事実上の不文律として罷り通っているのだ。
この『フリーター』以前は、日本の場合「労働三法」と言うのが存在して「理由無く解雇」するなどの「不当労働行為」は厳しく禁じられていたが、今では各地の訴訟事例でも裁判所は雇用者側の「解雇権」を認めていて、若者には基本的人権も認められていない有様である。正社員層がいて、『フリーター』がいて、『フリーター』にもなれない引きこもりがいる。まさに日本は格差社会が現実になろうとしている。これからは社会保険にも加入せず、『年金』も受給できない若者世代が次第に『中高年化』していくだろう。
このコラムでも、様々なテーマに関連して触れてきたことであるが、人間とは群としての世代でいかにエゴイスティックなことをする動物群であることか?失業問題などの、最も基本的な経済問題を青年たちへの差別や虐待とも言えるフリーター制度や解雇自由契約制度で乗り切ってしまおうとするのだから。フランスでも日本でも、洋の東西を問わない、世代間差別といえる。
全体としては、経済の発展を願う、と言う基調は在るのだろうが、それに矛盾があろうが、無理があろうが青年層にそれを押し付けてしまうことによって乗り切ってしまうことに何の痛痒も感じない。 これまでは非抑圧民族の圧迫や帝国主義戦争によって回避してきた国内矛盾を、力なき国内青年層への圧迫によって解決しようとしているのだ。かつて、青年層への圧迫は、青年の叛乱や反逆によって抵抗を受けてきた。
しかし今や、青年の教育までもが大人層の言いなりになっている。青年層の保守化や『教育基本法』改悪の試みを見よ。反抗する青年は、不良や落ちこぼれのレッテルを張り、物言わぬ引きこもり層は負け組みとし、従順に大人たちの与えた目標にしがみつく若者だけを誉めそやして大切にする。こんな時代に素直に従ってどうする。 記憶に新しいことであろうが、先の衆院選は小泉自民党の圧勝に終った。事前の世論調査では、かつて無いほどの若者の選挙への関心が言われ、投票率があがることが予測されていた。
事実、投票率は上がり、それでも自民党は勝った。と言うことは、選挙に関心を持ち、投票に新しく参加した若者たちが自民党に投票したと言うことである。選挙当時、勝ち組か負け組みかということが関心の的になった。今では格差社会が『是か非か?』と言うことが問われている。詳しい分析はなされていないが、若者たちは『勝ち組』に投票し、格差社会『是』と言う意見に賛成票を投じたことになる。
千葉の補選では民主党が勝ったが最年少だという女性当選議員は私は『負け組み』ではないといって『自慢』していた。今の若者たちの多くが『勝ち組』だとは思わない。 あえて言うなら『勝ち組』になりたいか『負け組み』になりたいかと問われれば『勝ち組』と言うのだろう。問題の捉え方を間違えている。『勝ち組』になりたいということと、現実の『勝ち組』を支持することとは違うはずだ。『格差社会』については問われるまでも泣く、『悪い』ことであることは分かっている筈だ。
ここでも『格差』が生まれてくるのは必然だの論理を媒介にして、どうせ「格差」があるのなら、『勝ち組』の方に入りたいという論理が転倒して『格差社会』肯定論の方に組する。メール問題で『混迷』を極めたり、元自民党の保守主義者を代表に頂いた民主党を支持せよというわけではないが、若者よ良い加減に目を覚まさなければ、君たちの未来はすべて「大人」たちにめちゃくちゃにされてしまうぞ。
CPE立法がまともか、立法措置など取らなくても『解雇自由、低賃金』が罷り通っている『フリーター社会』がまともなのか、フランス人に聞かなくても分かるはずだ。この『フリーター社会』になじむ為に『一日も早くアルバイトを』などという人は、たとえ親であろうと先生であろうと、ずるい大人社会のメンバーに違いない。そんな人の言うことなど聞くべきではない。ただ、アルバイトもせず、ふてくされて寝ていても良いというわけではない。
2006.04.24.