NPO法人 ニュースタート事務局関西

直言曲言 休筆

By , 2013年11月18日 10:09 AM

「直言曲言」は今回を以て休載いたします。長い間ご愛読ありがとうございました。
1997年神戸で「酒鬼薔薇聖斗」事件という殺人事件が起きた。児童の首を切って中学校の校門の前に置くという奇怪な事件であった。事件そのものも残虐であったが、それ以上に世間が衝撃を受けたのは犯人が14歳の少年であったということである。1998年にニュースタート事務局関西が初めての講演会を開いたが、私たちの予測以上にお父さんやお母さん方が押し掛けたのはこの「酒鬼薔薇聖斗」事件の記憶が鮮明であったからかもしれない。少年から青年にむかうこの頃の子どもの異常心理が大人たちに恐怖を覚えさせる大事件であったのだ。講演会に参加した親たちの質問は「うちの子は異常ではないのか。精神病ではないか?」ということに集中した。「酒鬼薔薇聖斗」が精神病であったかどうかは知らない。しかし、親たちの心配は「引きこもり」の青年は「精神病」ではないかと、2段階の仮定をすっ飛ばして、犯罪予備軍の恐怖を抱いているのだった。今から考えると「引きこもり」であるかどうかの疑問には関心がなかったのかもしれない。応えようとする私たちには、親の疑問に応えるためには、子どものどのような、行為が心配の対象になっているのか、考えざるを得なかった。すると、ほとんどの親は、あらゆる競争に打ち勝つことを求め、友だちや人間に対して不信感を植え付けている人ばかりだった。「子どもが異常」であるかどうかよりも「親が異常」であることが明らかであった。「引きこもり」である子どもが「精神病」であるかどうかの前に「引きこもりは(精神病)ではない」と主張せざるを得なかった。
マスコミでも異常な殺人事件を犯した少年に対する「精神病」キャンペーンがはびこっていた。「異常な殺人事件」であったのは確かであるから、「異常」を心配するのは当然かもしれないが、彼らが心配する「引きこもり」は少しも「異常」だとは思えなかった。むしろ親や学校が子どもたちを追いこんでいる状況こそ「異常」であり、子どもたちはそこから逃れようとして、親や学校からの圧力に抵抗をしているのであった。その後も、佐賀の西鉄バスジャック事件などの凶悪事件が続出し、若者の「精神異常」懸念が続いた。引きこもりを心配する親たちの関心事もそのことばかりであったので、私もそのことを考え続け、ホームページにもそのことを書き続けた。たまたまそのホームページを目にした精神科医が、私の疑問に賛意を伝えてくれ、その後メールの交換が始まった。
2002年の7月にはホームページでの論考と、メールの交換をまとめて小冊子「引きこもりは病気ではない」を発行した。その後も論考をホームページに掲載し続け、「直言曲言」と題した。「直言曲言」は先月(2013年11月)で第335回に届いた。最近では毎月発行の「ニュースタート事務局関西通信」に掲載しているだけだが、初期はそれ以上の頻度でホームページに掲載していた。関西事務局からの広報活動や情報発信はほぼそれに限られていたが、千葉のNPO法人からの活動広報も多く、ドキュメンタリー番組や法人活動を素材にしたドラマ番組も制作されるなどニュースタート事務局の活動や主張も広く知られるようになった。おかげで、全国紙などのマスコミにもインタビューを受けるようになり、「直言曲言」の知名度も高くなった。インターネットを通じて「直言曲言」も引用されることが多くなり、大学入試問題にも採用された。
精神科医との対話で私の仮説に寄せられた賛意に励まされ、私の思考実験も快調に続いた。2005年9月、事務所を尋ねられた枚方保健所のご一行の前でお話しをさせて頂いている時、突然、口がもつれ、話せなくなった。誰かが「脳梗塞では!」と叫ばれ、すぐに救急車が呼ばれて、入院することになった。発病後すぐの入院であったが、MRIの検査で発症は脳幹部とのことでかなり重症のようであった。ところが、左半身不随の症状はあるものの、それ以外は何の痛みも苦しみもなく、キツネにつままれたような病状であった。発病から3カ月リハビリテーションでの転院を含み、6カ月の入院生活で退院した。退院してみれば、車椅子生活は強いられるが。それ以外の苦痛もなく、妻や他のメンバーに迷惑をかけながら、ニュースタート事務局活動に復帰した。復帰して最も心配したのは「直言曲言」が書けるかどうかであった。かなり重症の脳梗塞であったのあったのだから、書いても理解して頂けるかどうか自信がなかった。恐る恐る書いた原稿を妻に読んでもらった。太鼓判を押してもらったわけではないが、特に禁止はされなかった。300回が近づくと、それを超えるのが目標になった。目標を持ってしまうと、テーマを見つけるのが苦痛になった。
苦しんでまで、連載を続ける必要はない。以前は書き続けることが喜びであった。今でも書きたいことがあれば、喜んで書くのだが、335回を振り返ってみれば、たいていのテーマには触れてきた。気力が衰えたわけではないが、新しいテーマを無理やり発見しようとは思わなくなった。引きこもりについての考え方はバックナンバーを読んで頂ければ必ず発見できる。それにニュースタート事務局関西でも若い書き手や話し手が続々と登場してきた。いつまでも私が存在していては、若手の邪魔をするばかりである。
私の方の条件は別として、読者・ご両親のお立場はあまり変わらないだろう。これまで通り、同じようなことに悩まれ、同じようなことを疑問に思われるだろう。遠慮なく事務局宛に、ご質問やご意見をお寄せ下さい。喜んでお返事をさせて頂く。何しろ読者の疑問やご父兄のご質問にお答えするのが何よりの生きがいなのだから。

 

2013,11,12  西嶋彰

4 Responses to “直言曲言 休筆”

  1. 大西 裕 より:

    時々覗いては、ほとんど読んでおりました。
    今回の休筆、残念に感じております。
    長い間おつかれさまでした。
    何よりも、引きこもりに関して、
    これまで様々尽力された事に関して頭が下がる思いです。
    良い種をまかれたと存じております。
    ありがとうございました。

    • nskansai より:

      大西様
      コメントの確認が遅れてしまい、返信が今になり大変申し訳ありません。
      長らくの愛読ありがとうございました。
      西嶋にも伝えます!!
      とりいそぎ

      ニュースタートスタッフ

  2. 西嶋彰 より:

    大西様
    ありがとうございます。餅代表の私がいつまでも連載を続けることに葛藤があり、休みました。辞めるつもりはありません。いずれまたお目に掛ります。どうぞよろしく

    • ごんだ より:

      アハハハ。わたしも去年車にひかれて入院していまして、
      これが終わったのを知りませんでした。
      私の知力の9割は西嶋さんの文章を読んで付けられたものでした。
      魅力的な文章内容であったので楽しく学ばせていただきました。
      人間関係の一番しんどいところへ切り込まれた骨太の筋肉ムキムキの
      そしてとても人にやさしい素晴らしい取り組みです。やくざで
      言うところの鉄砲玉です。若いね!    アリガトウございました。

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